職場結婚も会社のお膳立てがあってこそ

萱野 本人たちは自由恋愛と思っていても、しばらくの間は実は、社会のあちこちでお膳立てがされていました。

例えば企業は、一般職の女の子を、総合職の男の子のアシスタントに付ける。職場が出会いのステージというか、プラットフォームをつくっていたんですね。その枠内で物々交換が行われた結果、お互いにメリットのある者同士が結婚に至るという。

佐藤 恋愛結婚と思っているだろうけれども、実はお膳立てがあってのことだと。

萱野 でも最近の企業は、社員の花嫁候補として女の子を就職させるほどの体力がなくなってしまった。そうなると、自分の持っているものをいいと思ってくれて、相手の持っているものをいいと思えるような相手を、広い範囲から自力で探さなくてはいけなくなった。それってほんとうに大変だと思います。

現代の結婚観において「恋愛結婚」は非常に重要視されていますから、その枠から外れることもなかなか難しいでしょうし。

佐藤 恋愛がうまくできないと結婚できないということですね。

萱野 そうなんです。自由になればなるほど、自力で条件の合う人を探さなければいけなくなります。それはものすごくエネルギーのいることですよ。人間はそこまで器用ではない。

自分の持ってるものと相手の持ってるものがぴったり一致する相手を見つけること自体が難しいですし、そこで気に入ってもらえるように器用にいろんな人とコミュニケーションを取ったり、自分をうまく演出したりできる人は、ほんの一部だというのが持論です。

萱野稔人
1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。
哲学の考えをベースに今の社会の問題を論じる。
近著に『成長なき時代のナショナリズム』(角川新書)、『暴力と富と資本主義 なぜ国家はグローバル化が進んでも消滅しないのか』(角川書店)、『国家とはなにか』(以文社)など。

佐藤優
作家、元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に上梓した『国家の罠−外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。

2006年には『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。世界・経済情勢はもちろん、愛する猫についても語る「知の巨人」。

右肩下がりの君たちへ

著:佐藤優 1,058円

社会の恩恵を感じ難い社会構造となってる今、この閉塞状況を打破するためのヒントを佐藤優と、若き知識人たちが語り合う。

津田大介×佐藤優「情報を見極めること」
古市憲寿×佐藤優「希望を持つこと」
萱野稔人×佐藤優「家族を持つということ」
木村草太×佐藤優「変化の中で生きること」
荻上チキ×佐藤優「いじめについて考えること」