スキマの家に遊びに来たつもりで、くつろいでいってもらえれば(大橋)

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そもそも昨年3月に行われたアルバム『musium』を引っさげた全国ツアーの最終公演でこのツアーの発表を聞いたとき、「そうきたか!」という意外な驚きを覚えた(前回のツアーもレポートしました→【音楽】スキマスイッチ最高潮のツアーファイナル沖縄公演 http://ure.pia.co.jp/articles/-/5483 )。デビュー前後の時期にはギターとピアノを背負ってふたりだけでステージをこなすこともあった彼らだが、現在そのころのふたりを知る人は決して多くはないだろう。’09年には今回のツアーの前身とも言える『SUKIMASWITCH TOUR'09 "DOUBLES"』を行っているが、当時のそれは互いのソロ活動を経ての”スキマスイッチ再始動”というタイミングということもあり、原点回帰の意味合いが強いものだった。

なにより前回の”ダブルス”からのもっとも大きな違いは、その間に彼らが『ナユタとフカシギ』『musium』という2枚のアルバムを生み出していることだ。2作で聴ける有機的でダイナミックなバンド・アンサンブルはライブでより肉感的な演奏に進化し、すばらしいステージを見せてくれた。この2作を引っさげたツアーは、スキマスイッチにとって大きな収穫となったはずだ。だからこそ、そんなバンドとの蜜月関係をいったん休み、ふたりだけで全県ツアーを行うという発表にはとても驚かされたのだった。
 

アルバム『DOUBLES BEST』
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その後発表されたセルフカバーベストアルバム『DOUBLES BEST』を聴いて、また驚いた。すべての楽曲をふたりだけで演奏した変則的なベスト盤である本作は、「ふたりだけ」という言葉からはおよそ想像できないほどのバラエティに富んだアレンジにあふれていたからだ。このアルバムを引っさげたツアー、ただの「ふたりだけ」で終わるはずがない。そんな期待はこの日のライブが始まった瞬間から確信へと変わった。浮遊感あふれるサウンドでいきなりの新境地へと誘った『アイスクリーム シンドローム』ではメロディの随所に大きなアレンジが加えられ、楽曲にさらなるうねりがもたらされていた。すでにリアレンジが加えられた楽曲たちが、長いツアーを経てさらに新しい表情を見せているのだ。

続く2曲目は、彼らの代名詞とも言えるヒット・チューン『全力少年』。ギターとピアノというシンプル極まりない編成にもかかわらず、疾走感やサビへと盛り上がる勢いは増している。普段のツアーではクライマックスに置かれることも多い曲が、観客のライブに対するモチベーションに火を点ける”着火点”として見事に生まれ変わっていた。大橋の声の出し方も、バンドのときとは明らかに違っている。音数の少ないアレンジの中でより丁寧に声を届けようとしているからだろうか、いつもよりなめらかというか、水分の多いみずみずしさを湛えた声なのだ。とてもロングツアーの終盤とは思えない絶好調ぶりが頼もしい。

そんなふたりに対するオーディエンスのテンションも高い。「(ノリが)すごいね! どうしたの?(大橋)」「みんな示し合わせたんじゃないの(笑)?(常田)」と驚きながらも、ふたりの表情はどこか晴れやかだ。

大橋「今回のセットは僕らの作業場、工房をイメージして作ってもらいました。なので、スキマの家に遊びに来たつもりで、くつろいでいってもらえればと思います」
常田「広いしね。渋谷の一等地だからね」
大橋「(笑)自由にゆっくり楽しんでください」

スキマスイッチが『ナユタとフカシギ』以降目指しているもののひとつに、「音楽の自由さをもっと実感してほしい」という願いがあると思う。MCで、先述した謎の機械(”ラウンチパッド”というものだそうです)について観客に懇切丁寧に説明していたが、それももっと音楽の面白さ、そして自由さを感じてほしいという想いの表れだろう。レゲエ調のエレキギターのカッティングと粘っこいベースラインで会場をアダルトなムードで染め上げた『螺旋』から、大橋のドラムをその場でループさせるなどやんちゃなロックンロールを鳴らした『ガラナ』の流れで、ライブ序盤にしてスキマスイッチの音楽性の幅広さを見せつけられる。