ライブ中盤であふれだした”音楽家・スキマスイッチ”の業

撮影:(C)岩佐篤樹  拡大画像表示

ここからの『ソングライアー』『さみしくとも明日を待つ』『雫』『ボクノート』の流れは、このツアーにおけるひとつのクライマックスだった。極めてシリアスなナンバーばかりが集められたこのブロックでは、先ほどまで気軽に話しかけられた”となりの兄ちゃん”の姿は影を潜め、自らのすべてを音楽に捧げる”音楽家・スキマスイッチ”の鬼気迫る演奏が繰り広げられる。ふたりだけで鳴らしているとは思えない圧巻の演奏の中で、ステージ上でのふたりの佇まいが印象に残った。

互いにしのぎを削って戦っているわけでもないし、仲良く無邪気に音を鳴らしているというわけでもない。互いに押し付けることもないが、遠慮もしない。大橋卓弥と常田真太郎がそれぞれ”個”としてステージに立ち、あくまで”個”として音を鳴らすことで、スキマスイッチという存在を現出させようとしているように見えたのだ。ふたりの間で重なりあう部分、交わらない部分、それぞれを尊重した上で自らの音を、声を鳴らす。それがそのままスキマスイッチの音楽になる。そこによけいな作為や戦略の匂いは感じられなかった。

今回のツアーは「ふたり」の意味、「ひとり」の意味、そして「スキマスイッチ」という存在そのものを問い直し、定義し直す意味合いもあったのではないだろうか。自らを見失ったスーパースターを皮肉たっぷりに歌ったブルース『ソングライアー』で始まり、今いる場所から逃げずに新たな歌を紡ごうとする想いを叫んだ『ボクノート』で終わるこのブロックは、このツアーだからこそ歌われるべき必然に満ちていた。
 

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ここからはお楽しみ、今回のツアーのために作られた新曲の披露だ。曲のテーマは「旅」。実はこの曲、歌詞に1ヵ所空きがある。車で旅をする主人公が目的地に近づき思わず声を出す「♪○○○○が見える」という歌詞に、都道府県ごとの名所やランドマーク的なスポットの名前を入れ込もうという趣向である。この日、渋谷のオーディエンスからの呼びかけで出た候補の中から選ばれたのは、渋谷駅前のハチ公。

だがメロディに「ハチ公」という言葉がハマらなかったようで、大橋が「ハチ公の鳴き声してよ」とムチャぶりし、常田が曲中で「ワン!」と叫ぶハメになっていたりと、ライブはまたしてもリラックスムードに揺り戻していく。しかしこの曲が本当によかった! “旅”という行為が持つワクワク感をそのまま音符と言葉に置き換えたような心おどるポップチューンで、「♪『Tomorrow never knows』なんか歌って」という歌詞も飛び出すなど、彼らのフリーなマインドが存分に発揮された会心のナンバーに仕上がっていた。ツアーのリハーサル中にこの名曲を書いたというのだから驚きだ。