市況の停滞が続くなかで、自作PC用パーツの単価アップが続いている。円安による影響は見逃せないが、新型CPU「Haswell」の販売がスタートした今年6月以降、ハイスペック化に拍車がかかりつつあるためだ。もともとパーツ市場は、マニアやゲーマーといった一部のパワーユーザーがメインとなるため「高性能」がキーワードとなってきたが、引き続きパーツ価格の上昇が続くようだと自作需要を削ぐ恐れもある。

自作PCは完成品PCとは違い、自らパーツを吟味して自分だけのオリジナルPCを作ることがその醍醐味といっていいが、ここ数年、自作機運は盛り上がりに欠け、パーツ市場は停滞が続いている。ただ、BCNが今年6月に実施したアンケート調査によると、自作経験者の半数以上が継続してPCの自作に意欲的で、経験は無くPCのメモリやHDD交換すら行ったことのない層でも約2割が自作PCに興味を抱く結果となった。この数値を見る限り、消費者の自作に対する興味、関心が低いとは言い難く、むしろ、業界が潜在需要を開拓しきれていないことが、市況の停滞を招く要因のひとつと判断すべきだろう。

自作機運の浮沈は、パーツに大きく左右される。斬新で高性能なパーツが登場した時に市場は盛り上がり、季節的には年末年始など長期休暇が取得できる時期に需要は高まってきた。パーツのなかで、特に核となるのがCPUとマザーボードだ。これらの売れ行きを販売台数指数(2010年8月の販売実績を「100」とした指数)でみていくと、いずれも年末年始に需要が膨らむパターンとなっている。ただ、年末年始以外は総じて低調で、今年の場合は2月以降精彩を欠く状況にある。6月にインテルのCPU、Coreシリーズ最新版となる「Haswell」が登場、市況回復への期待は膨らんだが、盛り上がりはいまひとつ。CPU指数が示す通り、5月の「67.8」に対して6月は「78.5」、8月は「80.0」と上昇へと転じたが伸びは小幅で、市況を好転させるカンフル剤とはなっていない。CPUと関係が深く販売量がきっ抗するマザーボードも、CPUに寄り添うような動きとなっている。この両者を合わせた販売台数伸び率(前年同月比)では、2月以降、7か月連続して前年割れが続き、8月は前年比88.8%にとどまった(図表1)。

パーツ需要が停滞するなかで、単価アップが顕著となってきた。年明け以降、円安と便乗値上げによる影響のほか、「Haswell」によるハイスペック化も単価アップを呼び込む要因となっている。主要パーツの単価推移をみていこう(図表2左)。

まず、CPUは「Haswell」が登場した6月時点の市場平均単価は2万1300円、その後はやや下げて8月は2万500円だった。立ち上げ当初はCore i7の上位モデルに需要が集中したが、その後、Core i5廉価版の販売増によって売れ行きは分散、単価は揺れ動くこととなった。8月現在で「Haswell」に対応したCPUが占める台数比率はほぼ半数。売れ筋は3万2-3000円台で推移中のハイエンドモデル「Core i7-4770K(3.5GHz)」で、9月に入ってからはCore i3対応モデルの販売もはじまっている。このCPUの動きに連動して、マザーボードも単価アップがすすんだ。「Haswell」対応チップセットは「Z87/H87/B85/H81」のIntel 8シリーズ。これら最新チップセットを搭載したマザーボードが増大しており、市場全体の4割以上を占めるようになったことが単価上昇の一因となった。売れ筋は2万円前後で推移中の「Z87」対応モデルで、最上位機種の売れ行きは依然として堅調な動きとなっている。LCDも大型化がすすみ、8月の平均単価は1万9900円と2万円超えが目前となった。需要の中核は約4割を占める22-24インチだが、一回り大きい24-26インチ、さらに大型となる27-30インチの売れ行きが好調。特に27-30インチの販売増が顕著で、市場全体に占める割合が10%を超えてきた。

グラフィックボードとメモリの単価上昇も顕在化しはじめた。前者は2万円前後でゲーマー向けとなるチップセット「GeForce GTX 660」搭載モデルが人気となったことが、市場平均単価を押し上げた。8月の単価は1万5900円で、過去3年(36か月)では最高値を記録している。一方、後者は年明け以降、急激な値上がりが続き、単純に販売金額を販売台数で割り込んだ8月の市場平均単価は5800円、1GB単価でみると昨年12月の約500円に対して現在は900円を超えてきた。売れ筋の8GB(4GB×2枚組)単価では、昨年12月の3000円台前半に対して8月は約7000円で、ほぼ2倍に跳ね上がったことになる。これら以外では、PCケースと電源もジリジリと単価がアップ、HDDベアドライブは需給バランスの安定で値を下げた昨年末を底に断続的な値上がりが続いている。

PCを自作するうえで基本となる、これら8つのパーツの平均単価を単純に足し込んだ合計額が、ハードウェア製作コストの平均となる。もちろん、各パーツの平均値だけにひとつの指標でしかないが、その合計額が急上昇しているのが分かる(図票2右)。昨年12月時点では8万1000円台で自作できたハードが、この8月では9万7000円とほぼ10万円もの投資が必要となることを示している。

今年の秋から年末にかけては、大型ゲームソフトや斬新なパーツの登場など自作需要を喚起する動きは乏しいとの見方が一般的だ。それだけにパーツの単価アップが続くようだと、自作入門層にとっての敷居は一段と高まり、ユーザーのすそ野を広げるうえで障壁となる恐れも否めない。(中村重行)