「今の父親って何?」というテーマが隠し味になった

――弱くなった父親の復権を目指す「父よ、勇気で立ち上がれ同盟」、通称「父ゆれ同盟」ですね。彼らの登場によって、父親としてのひろしの存在がいわゆる頑固親父的なものとは対極にあることが際立ったように思いました。

中島 そうですよね。「今の父親って何?」というテーマが隠し味になったと思います。『しんちゃん』なので、表面はおもしろおかしい愉快な映画になっていますが、裏側にはそういうテーマが流れているんです。

――あらためてお聞きしたいのですが、中島さんから見たひろしの魅力とはどのようなものなのでしょうか?

中島 やっぱり「情けないことが強い」ということだと思います。ネガティブなことでもプラスになる。ギャグ的に言うと、ひろしの足の臭さはロボットにも通じたりするとか(笑)。弱さとか人間くささもひっくるめて、がんばって生きているところがひろしのいいところだと思うんです。

――うんうん。

中島 それがハッキリしたのって、『オトナ帝国』(映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』)だと思うんですよ。ひろしが正気を失うんだけど、しんのすけに自分の足の匂いをかがされて、自分の人生を思い出しながら意識を取り戻すシーンがありますよね。それって足の匂いで目が覚めたんじゃなくて、「ここまで自分が歩んできた人生は間違っていなかったんだ」という匂いで目が覚めたんだと思うんです。

――営業で外回りしていれば足も臭くなりますよね。

中島 生きてきて年をとれば、足も臭くなるんですよ。その生きてきた匂いが彼を正気に戻したんです。それを言葉でなく絵と音楽だけで表現していて、すごく素敵なシーンでしたね。ひろしはこれで正気に戻るんだ、ひろしとはこういう男なんだ、というのが僕の中のひろし像です。

――自分が歩んできた道や家族といることに大きな不満があったら、正気は取り戻せなかったということですね。一方で、家族は父親を敬うものだ、強い父親がこの国の秩序を守るんだ、という「父ゆれ同盟」がアピールしている父親の“強さ”や“正しさ”についてはいかがお考えですか?

中島 それは今となってはアナクロですよね。ここ最近の日本にはそういうムードが漂っているので、なんかちょっとコワいよね、と映画を通して感じ取ってもらえればいいのですが。そもそも、そういうことを言う人は、自分の弱さを認められない人なのかもしれない。だから虚勢を張ってしまうんでしょう。それは、ひろしとは対極にある父親なんです。

――ひろしは自分の弱さを認めることができますからね。そんなひろしが今回はロボットになってしまうという。

中島 主役のしんのすけとすれば、父ちゃんがロボットになって帰ってきたら大喜びでしょうね(笑)。実はロボットが絡む父子の話って、映画にも多いんですよね。『リアル・スティール』も父子の話だったし、『パシフィック・リム』にも父子の話がありますし。

――本当だ! 『ターミネーター2』も父子の話と言えなくもないですよね。

中島 どうしてもロボットの話となると、親父と息子の話になるんでしょう。父子を描くとき、ロボットって結構適した題材なのかもしれませんね。

――劇中に出てくる「なんで男って巨大ロボが好きなのかしら」というみさえの呟きがすべてを表している気がします(笑)。