また、逆に、「キャベツの千切りやちぎったレタスを冷水にさらし、シャキッとさせる」という方法があります。これは、次のような仕組みによるものです。

1)外の液体(冷水)よりも、野菜の細胞内の液体濃度の方が高いため、水分が野菜の細胞の中に入ってくる。
2)野菜の細胞が水分で膨張し、組織が冷水によって緊張するため、張りが出て、シャキッとした歯触りになる。

「でも、水につけておいたら、ビタミンCが溶け出すのでは…?」

そうなのです。ここで注意したいのは、「あまり長い間、水に漬けておいてはいけない」、ということ。時間が経って吸水の限界がくると、今度は外の液体と同じ濃度になろうとして組織の液体が外に移動し、野菜に含まれる水溶性ビタミンが溶けだしてしまうのです。

ちなみに、キャベツの千切りの場合、水にさらす時間は、氷水であれば1分ほどでよいようです。冷たい水でないと、なかなかシャキッとしないとか…。
キャベツの千切り おいしくシャキッとさせるコツ(日本経済新聞社)

 

ところで、キュウリの酢の物など、食材を調味料で和えた後、長い時間置いておくと水っぽくなってしまうことがあります。これも浸透圧によるもので、中と外とが同じ濃度になろうとするため、時間が経つにつれてどんどん水分が外に出てくるのです。

「食べる直前に調味料で和える」とレシピに書かれていることがあるのは、適度な水分にコントロールするためなのですね。 

では次に、浸透圧と同様、水分調節に影響を与える「デンプン」の性質について、見ていきましょう。

 

デンプンの性質

ごはんやイモ類、麺類には「デンプン」が含まれています。このデンプンは、水分を加えて熱することで水に溶けて粘りが生まれ、「糊(のり)」状に変化します。これを「糊化(アルファ化)」と言います。

デンプンの分子は、何百というブドウ糖の分子が堅く結合して鎖のようにつながっていますが、糊化するとこの結合が崩れ、デンプンの分子の隙間に水の分子が入り込み、膨張します。

一度糊化したデンプンは、放置しておくと次第に粘りを失っていき、生のときの状態に戻ります。これを「老化(ベータ化)」と言います。

このデンプンの性質を知っておくと、「なるほど」と理解できる調理の手順がたくさんあります。

例えば、すし飯。
炊き上がった後、「熱いうちにすし酢を加える」のは、ごはんの中のデンプンが膨張し、水分を吸収しやすい状態になっているからです。ごはんが冷めてしまうと、どんどん膨らみがなくなり、調味料が染み込まなくなってしまいます。従って、熱いうちにすし酢を加え、しゃもじでよく混ぜながら味を含ませるのです。

さらに付け加えると、砂糖には水分を吸収する働きがあり、デンプンの老化を防止する、という働きもあります。(すし飯が冷めても硬くなりづらいのはそのためです)

また、片栗粉はジャガイモのデンプンから作られており、汁やスープにとろみをつけるために使われますが、これも、デンプンが水とともに加熱され、「糊化」することで粘りが生まれる性質を利用したものです。

しかし、水溶き片栗粉を汁やスープに加える際、煮立った状態で入れると、急激に糊化してそこだけ固まり、ダマになってしまいます。「いったん火を止め、片栗粉を加える」ようにするのは、なめらかに仕上げるためなのですね。

また、逆に片栗粉を加えたまま加熱し続けていると、デンプンの分子の鎖が壊れて粘りがなくなり、せっかくのとろみが失われてしまいます。そこで、片栗粉を入れたら「ひと煮立ちさせ、火を止める」ようにします。(片栗粉を加える際は、汁やスープをかき混ぜながら入れるようにしましょう)

では、以上のことを念頭に、定番メニューにおける「水分コントロール」のポイントを見ていきましょう。