上手な人でないと絵を省略することはできない

男鹿さんは、宮崎駿監督にスカウトされ『となりのトトロ』の背景美術を担当。高く評価されると、その後も数え上げるときりが無いほど数多くのスタジオジブリ作品を担当してきました。書籍『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』では、男鹿さんの魅力を語る鈴木敏夫プロデューサの言葉が紹介されています。

「男鹿さんはね、よけいなものを描かないんだ。たとえば、画面のなかで、みんなが注目するモノがあるとき、その周りはちゃんと描くんだけど、みんながあまり見ないような場所は適当にしか描かない。そのメリハリがすばらしいんだ」(同書より)

背景デザインを完璧に仕上げる男鹿さんですが、そのなかには、一流にしかできない“抜き”のテクニックがあるのです。例えば、『もののけ姫』で主人公のアシタカがヤックルに乗って道を駆け抜けていくシーンの背景。アシタカの姿は当然ですが、同時に出てくる道の石垣や背景の森の部分も、専門家によってしっかりと描写されていると思っていました。

しかし、実際には、手前にある石垣部分は非常に細かく描かれているのですが、画面上部にくる森の部分はかなり大ざっぱな仕上げになっています。この抜き方が一流の技。

「必要最小限のものを描くというのは、やっぱり男鹿さんだからできるんであって、下手な人ほど不安になってたくさん描き込んでしまう。上手な人でないと省略というのはできなくて、それと同じことを下手な人がやろうとすると、スカスカで、説得力のない絵になる。だから下手な人ほど、どんどん描き込んで線が増えるのです」(同書より)

なるほど、描く部分が少なくて楽なんじゃないかと思ったりしてスミマセンでした。適切な情報量をひとつの絵に組み込むことが大切なのです。確かにストーリーとあまり関係のない部分の描写が細かすぎると、後々のストーリーに関係するポイントが潜んでいないかと、緊張しながら鑑賞することになります。そんな鑑賞者のストレスを除くために、スタジオジブリの職人たちは情報量を減らし、調整しているのです。

この“抜き”を堂々とできることこそが、簡単には真似できない、スタジオジブリのクリエイターならではの芸当なのではないでしょうか。シンプルなストーリーとイラストで年齢・男女・国内外を問わず広く愛されるスタジオジブリ作品の裏側には、このようなテクニックがあったのです。

書籍情報
『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと』川上量生著 NHK出版