お「そうなんですよね。息子には家事ができるようになってもらいたい、だけど自分の夫は家事ができない、どうしたらいいのか、で止まってしまっているお母さんは多いですね。一義的には、そのお父さんはしっかりしなきゃいけない、大人なんだから家事くらいできないと。

一方で、お母さん自身が“男はこうあるべき、女はこうあるべき”という価値観から抜け出せていなくて、お父さんを甘やかしてしまっている部分もあると思います。その状態で口だけであれこれ言っても、説得力がありませんよね」

――一緒に住んでいるお父さんがなにもしていない横で言ってもね。子どもは両親の関係性も含めて全部みているような気がします。

お「しかも、そういうお母さんって、息子が結婚相手を連れてきたとき、手塩にかけていい大学まで入れた息子だったらなおさら、息子が出世するためにあなたは専業主婦になってねって平気で言っちゃうんですよね。

母親が、自分も苦労をしたはずなのに、息子の結婚相手の女性には犠牲を強いるということはよくあることです」

――そう考えると、時代に合わせてマインドを変えていくのって、簡単なことではないのだなあ、と思わされます。

お「親が変わらなきゃいけないというと大変な感じがしますが、バイアス(偏見)を持っていない人はいないんです。そのバイアスに、意識として気づかないといけないということですね」

――気づいたら、直していける気がします。

お「先ほど、親のできることはすごく少ないと言いましたが、とはいえ、親がちゃんと時代の風を感じとって、過去のしがらみをあきらかにしながら自分の人生を生きていれば、子どもはそこから自分で学びます。だから、子どもに1から10まで教えなくても大丈夫なんですよ」

ケンカについては、親はどのように接したらいい?

――たとえば子ども同士のケンカについて、間に入って、仲裁してしまいがちな親もいると思います。ケンカについては、親はどのように接したらいいのでしょうか

お「子どもが成長する過程でのケンカについては、子どもが自分で対処できない場合、傷ついたままで回復できない場合に限っては親が関与するほうがいいと思います。

ですが、たいていの場合は小競り合いですし、子どもは大人とちがって利害利権がシンプルです。ケンカをしても、自分たちで落としどころを見つけるのがうまいんですよ」

――大人のほうが、一度ケンカしたら修復するのが難しかったりしますよね。

お「子どもでもできるのにね(笑)そうやって、人とぶつかっても、乗り越え克服していく経験をさせてあげてください。ケンカをしても、“彼は僕のことを嫌いなわけじゃない、あのときは頭にきたけど仲直りはできるんだ“とわかることで、経験値が上がっていくんです。

そこに親が介入すると、子どもの力や可能性を奪ってしまうことになります」

――まずは子どもの人間関係を修復できる力を信じて、見守って、状況や子どもの性格に応じて、先生に相談するなり、まわりの大人で対処していけばいいということですね。

大切なのは、子どもの力を信じること

――ケンカにかぎらず、なにかあったとき、子どもの言い分を聞く前にいろいろ言ってしまいがちな親は多い気がします。

特に、男の子は女の子と違ってあまり自分から話をしたがらない傾向があると思いますが、子どもの話を聴く前に先回りしてしまうと、ますます子どもの話を聴くことができなくなってしまいますよね。

お「自分が教えないと子どもがダメになってしまう、という意識があるからでしょうね。でも、世の中のこと全部教えようとしたら、時間が足りないですよね。だからあれもこれもと教え込もうとしてしまう、責任感が強すぎるんです」

――子どもをしっかり育てなくては、という責任感自体は、悪いことではないと思いますが、行き過ぎるということでしょうか。

お「責任感が強いことを逆に言うと、子どもが自ら学んでいく力を軽視しているとも言えます。

子どもにはちゃんと自分に必要なものを選び取って、学んでいく力、これはモンテッソーリ教育でいわれる、自己教育力ですね。それを持っているのに、1から10まで親が教えなくてはいけない、という呪縛から、親がまず解放されることです。

それができれば、“今この子はなにを学んでいるんだろうな”という、子どもの話を聴くモードに切り替わっていきます。」