知られざる助産師の仕事!人の生と死に一番立ち合っている職業なのでは?

――『おっぱい先生』に登場する女性たちは、コントロールのきかない体と心、さらに夫や子どもの父親との関係に、それぞれ大きな悩みを抱えています。なかには幸せなお産ではなかったエピソードもありました。

泉:助産師さんというのは、出産、産前産後のママのケアのプロフェッショナルであると同時に、人の生まれるところと亡くなるところにこれほど立ち合っていらっしゃる仕事は他にないと思います。

妊娠と出産というのは、常に生と死が隣り合っていると感じます。

産前産後のママにとって、生と死は紙一重。そのふたつを隔てる壁は本当に薄いように思えます。

悲しい経験を隠している人が多いだけで、生まれることができなかった命も少なからずある。そんなママや赤ちゃん、家族の人生の節目に寄り添ってくださるのが「助産師」という専門職、といえる気がしました。

ですが、それだけのプロフェッショナルなのに「助産師」や「助産院」の存在については、あまり知られていないように感じます。

助産師が看護師の資格を持つ女性だけの職業で、助産院の中には出産を扱わずに母乳外来だけを行っている場所もある。私も自分が経験するまでは知らないことばかりでした。

ちなみに私は、初めて乳腺炎になりかけた時に、どうしたらいいか分からなくて総合病院の乳腺外科に電話をしたんです。

そこで「産後のおっぱいのケアは助産院がしてくれますよ」と教えていただいて、初めて「助産師さんって出産のフォローだけじゃなく、授乳についての相談にも対応してくれるんだ!」と驚きました。

あんなに「痛い、痛い!」って切羽詰まって調べたはずなのに、検索のキーワードさえ思いつかなくて情報にたどり着けませんでした。

だからいま、赤ちゃんの育児真っ最中のママたちには、「助産師」や「助産院」の存在を知って欲しいなと思います。

人生の「変化」の時を、気軽にプロの手を借りて乗り切ってもらいたいな、と思います。

――たしかに妊娠・出産・産後は、ママにとって人生の「変化」の時。「激変」といっても過言ではない時期を如何に乗り切るかというのは、家族にとって大きな課題ですね。

人生の激変に向き合うママたちへ「寄り添ってくれる専門家がきっといます」

泉:いま新型コロナウイルスの影響もあって、大きな「変化」が私たちの生活に起きています。

新しい感染症にしても、産前産後にしても、母乳育児にしても、「変化」の時に孤独になってしまうと、誰だってとてもつらいと思います。

環境が大きく「変化」をする時って、人間はたくさんの人と支え合って対応していくものなんじゃないかなと。

私は初めて助産院の母乳外来に行った時に「ここは“赤ちゃん時間”なので、お待たせしちゃうと思います」って言われたんです。

――“赤ちゃん時間”ですか!

泉:はい(笑)。

その“赤ちゃん時間”という言葉に、「ああ、私の世界は変わったんだな」と感じました。

わずか1年前だったら「いつになるか分からないけれど、とりあえずここでゆっくり待っていてくださいね」という場所は、想像したこともありませんでした(笑)。

産後は誰に何を聞いたらいいのか、どこを向いて歩いているのか全然分からなくて不安だったけれど、その言葉を聞いたときに「新しい世界が開かれているんだな」って、ようやく思えた気がしました。

そしてそこで一緒に過ごしてくれる人がいる、ということにとても暖かい気持ちになりました。

――“赤ちゃん時間”という言葉と、助産師さんの「こちらの世界へようこそ!」と迎え入れてくれるような大らかさに、ご自身の「変化」への戸惑いが和らいだのかもしれませんね。