藤谷:今回は、CDが売れないこんな世の中じゃ……ってわけではないですけど、ライターの山口哲生さんと高崎光さんをお迎えして、上半期にリリースされたCDについてそれぞれがオススメを語るという座談会です。よろしくお願いします。

今年上半期は活動休止を余儀なくされていたlynch.の復活作『SINNERS - EP』、ボーカル・ソラが加入して新体制となったLEZARDのシングル『TOKAGE!!ライジング』など、明るいニュースを含んだリリースや、cali≠gari『13』やD'ERLANGERJ'aime La Vie』といったベテランが「これぞ!」という円熟味のあるアルバムもありました。

山口アルルカンが、シングル(『価値観の違いは唯一の救いだった』)に、初期に発表した14曲を再レコーディングして収録したのは面白かったですね。

藤谷:それをシングルのカップリングの「音源集」として出すというのがまず異例ですよね。「15曲入りシングル」ってパンチがきいてるじゃないですか。ゴールデンボンバーがLINEスタンプでベストアルバムを出したのもそうですけど、リリースというもの自体に対して何らかの試みを行っているのが面白い。

それこそ、上半期はゴールデンボンバーの『#CDが売れないこんな世の中じゃ』の衝撃ときたら。この曲は「ミュージックステーション」で初披露だったじゃないですか、パフォーマンス中にQRコードを出して「ダウンロードしろ」っていう。

本来「ミュージックステーションに出る」ということはCDを売るためのプロモーションという意味も大きいじゃないですか。前提を崩してきたわけですよ。ある意味破壊活動ですよ(笑)。

山口:企画力がすごいですよね。

高崎:とあるタワレコのPOPに「正直ジャケットを差し替えてほしいです」って書いてありました。もちろんギャグでですけど(笑)。

藤谷:ジャケットにダウンロードURLのQRコードが印刷されてますからね(笑)。そうやって色んな所に波紋を起こせるのが面白いなと、手垢の付いた表現ですけど「一石を投じる」ってそういうことなんでしょうね。全体的に前ほど激しい複数種売りも減ってる気がするんですよね。CDというパッケージについての認識が変わってるのかな。

高崎:ここ何年か、大手レコード会社各社が事業計画で割と「CDセールスに頼らない総合エンターテインメント企業に」って言っちゃってるんですよね。キングレコードあたりはAKB48もいるし、まだ抗ってますけど。

「CDが売れないのはもうどうしようもないから、興行やらIPやらマーチャンやらで採算とろうぜ」と、大声で言う事がカッコ悪くないって雰囲気が完全に出来上がったから、だいぶ自由になったのかも。

藤谷:と、いうわけで、今年上半期、皆がおすすめしたいCD3枚をあげてもらいたいと思います。まず、山口さんからお願いします。

山口:僕、全部ベストアルバムなんですけど……。

藤谷:上半期ベスト企画に全部ベストアルバムを持ってくる、「頭痛が痛い」「馬から落馬」みたいな。

山口:あとは「詳しい詳細」とか(笑)。ベスト盤を選んだ理由としては、単純に「入りやすい」というのがまず。

あと、最近はサブスクリプション型サービスも出てきましたけど、バンドや音楽が気になった場合って、やっぱりまずYouTubeで聴くことが多いと思うんです。で、横に関連動画も出ているんだけど、結局それ自体とは全然関係ないものに飛んだりして、その1曲で終わりがちというか。

それ自体を知るキッカケとしては便利だと思うんですけど、深くわかりやすく知りたいとなると、やっぱりベスト盤って最強だなと。

藤谷:リリースペースが早いから、ある程度活動してるバンドだと、どのCDから入っていいかわからないのはあるかもしれません。

山口:そこに加えて、ヴィジュアル系ってどうしてもクローズドな土壌があるじゃないですか。だからいちライターとして、もうちょっとカジュアルにヴィジュアル系に触れてくれる人、ライト層が増えてくれたらいいなという願いも込めてのベストという選択です。この記事も「なんとなく気になっている人」が読んでくれる面もあると思うので。

高崎:いい話だった。

SuG『MIXTAPE』

山口:で、まず1枚目はSuGの『MIXTAPE』です。これは今年10周年を迎えた彼らの記念ベストなんですけど、SuGというバンド名がHIPHOPのスラング(thug)からきていて。それでこのタイトルのベストアルバムを出すというところでニヤリとしてしまいます。あとはジャケットもかわいい。

藤谷:本当だ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』みたいでかわいい! 通常盤の女性の顔にカセットテープが飛び散ってる画像にグリッチエフェクトかかってるのもいいですね。アナログとデジタル両方取りっぽくて。

私の中でSuGって最初は、とっちらかってるというか、悪い意味での「ルックス先行」というか、やりたいことと技術のバランスの悪いバンドだったという印象があったんです。

高崎:私はPS COMPANY育ちのバンドたちのそういうところが好きなんですよ。技術と理想の間で戦いまくってて、ビジョナリーでギラついてて前のめり……。

山口:本人達も、昔は技量がなくて、当時やりたかったことを現在の自分達でアップデートしているという話はよくしてますね。SuGって色んなジャンルをミックスした曲であり音が特徴なんですけど、そこは昔から変わっていなくて。そこに10年の重みと筋が通っているから、聴いていて気持ちがいいんです。いろんなことをしてきたけど、ある意味変わっていないというか。

高崎:わー、『☆ギミギミ☆』だとか、初期のポップな曲もちゃんと入っているんですね。

藤谷:最近の曲である『teenAge dream』から『☆ギミギミ☆』の流れも違和感ないんですよね。武道館の名刺代わり的なCDといえるアルバムですね。

山口:そう思います。武道館も目前に迫って来ましたけど、10年目っていう勝負の年に大きく打って出たことは、やっぱり拍手を贈りたいです。……と、いいつつ下半期のリリースになっちゃうんですけど(苦笑)、一番推したいのは最新EPの『AGAKU』なんですよ。

この曲も「アップデート」という話につながってくるんですが、活動休止前に『sweeToxic』という曲を発表していて。あの曲はファンクを基盤にして、かなり早い時期にダブステップを取り入れていたんですけど、今回はその路線の強化版です。

曲調をひとことで言ってしまうと「おしゃれ」なんですけど、それでいて歌詞が泥臭いっていうのがまた良いんですよ。そこにこのバンド独特の空気感がある。音にしろ言葉にしろ、こういう混ぜ方をするバンドってジャンル問わずなかなかいないし、武道館前にいい曲をしっかり作ってきた勝負強さもさすがだなと思いました。

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