iPhone 5(左からau版、ソフトバンクモバイル版)

アップルのスマートフォン「iPhone 5」は、ソフトバンクモバイルとKDDI(au)の2社が販売する。外出先や通勤・通学の電車の中など、モバイル環境でインターネット端末として利用する場合、どちらの「iPhone 5」がより便利に、ストレスなく利用できるだろうか。機能や、利用できるサービスの違いをまとめた。

●基本は同じiPhone LTE/3Gの通信速度とメール関連が異なる

デザインが大きく変わり、フルHD動画やパノラマ写真も簡単に撮影できる有効800万画素のカメラ、従来のWi-Fi(無線LAN)環境に加え、携帯電話のネットワークでも使えるようになったビデオ通話機能「FaceTime」など、ハード、ソフトの両面から、これまで以上に魅力が増した「iPhone 5」。今回は、ソフトバンクモバイルとau、どちらのキャリアにしようか迷っている方向けに、<「iPhone 5」の料金を比較! 新規・MNPは同じ、機種変更はソフトバンクがおトク!>で紹介した料金・キャンペーン以外の「違い」をまとめた。ポイントは、「LTE&テザリング」「3G&データ通信中の通話」、そして「キャリア独自のサービス・サポート」の三つだ。

●最大のポイントは「LTE」 事前にサービスエリアマップで確認しよう

「iPhone 5」の発売に合わせて、ソフトバンクモバイルは2.1GHz帯の周波数を使ったFDD-LTE方式の高速データ通信サービス「SoftBank 4G LTE」を、auは同じくFDD-LTE方式の高速データ通信サービス「4G LTE」を開始した。下り(受信時)の通信速度はともに最大75Mbps(ベストエフォート方式)で、理論上は、固定回線の光ファイバー(FTTH)並みのスピードで通信できる。

さらに、有料の「テザリングオプション」を申し込めば、「iPhone 5」をモバイルWi-Fiルータとして使うことができる。オプション料金は月額525円だが、キャンペーン期間中に申し込めば、最大2年間は無料になる。auはすでに提供中で、ソフトバンクモバイルは、12月31日まで申込みを受付け、2013年1月15日に開始する予定だ。

「テザリング」は、iPod touchやiPad Wi-Fiモデル、ノートPC、携帯ゲーム機など、複数のWi-Fi対応機器を毎日持ち歩いている人や、自宅ではほとんどインターネットを利用しない人にとってはうれしい機能。複数の回線契約を「iPhone 5」の回線に一本化すれば、通信費も削減できる。ただし、auの場合、1か月あたりの通信量が7GBを超えると、通信速度が超低速の送受信最大128kbpsに制限され、オプションで追加料金を支払わないと本来のスピードで通信できず、LTEのメリットが失われてしまう。キャンペーンの適用で、当初2年間は無料で使えるとはいえ、他にWi-Fi対応機器を持っていなければ必要のない機能ともいえる。なお、ソフトバンクモバイルの場合、「テザリングオプション」を申し込まなければ、1か月あたりの通信料が7GBを超えても、通信速度が128kbpsに制限されることはない。

※最大通信速度は理論値です。ベストエフォート型サービスのため、地域や通信環境、混雑状況などによって実際の通信速度は変わります

※「SoftBank 4G LTE」の下り最大75Mbpsのエリアは一部のみ(その他のエリアは最大37.5Mbps)

9月21日にスタートしたばかりの高速データ通信サービス「SoftBank 4G LTE」「4G LTE」に対する懸念は、利用可能なサービスエリアと実際の通信速度。両キャリアとも、従来の3Gを含めたサービスエリアをウェブ上で公開しているが、9月27日現在、auは「4G LTE」に関して一般的なマップ形式ではなく、都道府県別に市区町村名を羅列したリストしか公開しておらず、細かいエリアはわからない。

ユーザーの立場としては、人口カバー率の高さや東京都心の対応状況より、自分の行動範囲内で使えるかどうかが気になるところ。リスト形式のauの「4G LTE」はあまり参考にならないが、公開されているサービスエリアマップを見て、自宅や学校、勤務先、よく行く場所などの対応状況をチェックしよう。なお、ソフトバンクモバイルは、「SoftBank 4G LTE」を利用できる市区町村リストも公開している。

「SoftBank 4G LTE」のサービスエリアマップをみると、東京23区を含む関東近郊は、一部を除いて「2012年10月中に拡大予定のサービスエリア」となっている。「iPhone 5」を使用し、神奈川県内の自宅付近で計測した「SoftBank 4G LTE」の下りの通信速度は25~30Mbps。従来の3Gに比べ、ブラウザ「Safari」とTwitterはサクサクとスムーズに動作し、ストレスはまったく感じない。実際にLTEの速度を体感して、「iPhone 5」の最大の魅力は次世代高速通信規格「LTE」対応だと確信した。

●通話と3Gデータ通信が同時利用できるのはSB版だけ

LTEサービスエリア外でのデータ通信と通話は、従来の3Gネットワークを使用する。3Gのデータ通信の下りの通信速度は、ソフトバンクモバイルが最大21Mbps、auが最大9.2Mbps。それぞれ「iPhone 4S」より高速化した。LTEの最大通信速度は同じだが、3Gは理論上、ソフトバンクモバイルのほうが約2倍速い。

※最大通信速度は理論値です。ベストエフォート型サービスのため、利用地域、通信環境、混雑状況などによって実際の通信速度は変わります

データ通信中に電話の着信があると、採用する通信規格の違いから、auの「iPhone 5」はいったんデータ通信が途切れてしまい、通話終了後、LTEで自動でデータ通信を再開するそうだ。対してソフトバンクモバイルの「iPhone 5」は、着信があってもデータ通信は途切れず、通話しながらバックグラウンドでデータ通信を行う。ただしその際、自動的にLTEから3Gに切り替わるそうだ。通信速度が落ちるとはいえ、頻繁に電話の着信がある人や、常に「radiko.jp」のようなインターネットラジオ番組を再生している人などは、制約のないSB版を選んだほうが便利だろう。

●プラスアルファの要素、キャリア独自サービスは?

三つ目のポイントは、キャリア独自のサービス・サポート体制。主な無料サービス、有料オプションサービスのラインアップはほぼ同じで、料金や内容に若干の違いがある。そのうち、無料サービスの代表例として、LTEや3Gのネットワークを補完する「公衆無線LANサービス」を取り上げたい。

Wi-Fiスポット数は、オフロード対策として、業界で真っ先に取り組んだソフトバンクモバイルの「ソフトバンクWi-Fiスポット」が断然多い。対してauの「au Wi-Fiスポット」は、数は少ないものの、「iPhone 5」から新たに対応した5Ghz帯の無線LANに対応し、より高速で通信できるとしている。「ソフトバンクWi-Fiスポット」も、設置時期が古いものを除き、無線LAN親機自体は、5Ghz帯の無線LANに対応しており、順次切り替えていくそうだ。

アップルは、「iPhone 5」の特徴の一つとして、よく使われている2.4GHzと、電子レンジなどとの干渉が少ないとされる5GHzの両方の周波数に対応する「デュアルバンド802.11nワイヤレス接続機能」と、Wi-Fi接続時の通信速度の高速化(最大150Mbps)を挙げている。5GHz帯の無線LAN(IEEE 802.11n)には、「GALAXY S III」なども対応しており、スマートフォン・タブレット端末では、今後、採用機種が増えていくと思われる。

「キャリア選び」の鍵は、何といっても一つ目のポイント、「LTE」のサービスエリアと通信速度だろう。「iPhone 5」のポテンシャルを引き出すためにも、LTEサービスのエリア拡大と、今後の対応状況の開示を期待したい。(BCN・嵯峨野 芙美)

※原稿執筆時点では、ソフトバンクモバイルの「iPhone 5」しか入手できず、auの「4G LTE」の通信速度は計測できませんでした。「SoftBank 4G LTE」と「4G LTE」の通信速度については、今後、掲載予定の別記事にて取り上げる予定です。