©鶴谷香央理/KADOKAWA

WEB「コミックNewtype」で連載中、5月に単行本1巻が発売となった鶴谷香央理さんの漫画『メタモルフォーゼの縁側』。

<75歳の老婦人が出会ったもの、それは少年たちの恋模様>――“BL×おばあちゃん”というユニークな設定をきっかけに、SNS上での連載ページのシェアは回を重ねるごとに広がり、サイト内でも人気の作品に。ついに発売となった単行本はたちまち重版となるなど、幅広い読者を獲得している。
 

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鶴谷さん「自分の漫画をこんなにたくさんの人に読んでもらったことがいままでなかったので、もちろんとても嬉しいのですが、ちょっと許容量をオーバーしてしまっている感じです。これ以上嬉しいことがあるなんて、そんなバカな!みたいな(笑)」

なぜこんなに多くの人がBLを好きなのだろう

2年前に夫を亡くした75歳の老婦人・市野井雪が、たまたま立ち寄った本屋で出会ったのは、少年たちの恋模様を描いた“BL(ボーイズ・ラブ)”コミックだった。

レジで雪から商品を受け取ったのは、密かにBLが好きな女子高生・佐山うらら。BLを通じて出会った年齢差58歳(!)のふたりの日常が、丹念に描かれていく。

©鶴谷香央理/KADOKAWA

そもそもは「BLをテーマに作品を描いてみたい」という思いが出発点だったそう。
 

「私は、多くの人が好きって思っていたり、流行っているものがすごく気になるんです。どうしてそれをみんな好きになっているのか。それを必要としてるということは、何かが足りていないということなのか、と。

BLは人口が多いジャンルだと思うのですが、なぜこんなに多くの人がBLを好きなのだろう、他の人はどういうふうにBLを読んでいるのだろうと、以前から気になっていました。

でも、BLの読み方はそれこそ本当に十人十色で。BL好きの人に取材もしてみたのですが、人によっても世代によっても全然違っていて、これだ!というものがあるわけではないですね」
 

75歳の雪と17歳のうららも、作中でのBLへの接し方は当然ながら異なる。それぞれの立場でBLに接し、BLを愛で、BLに胸打たれる彼女たちの姿は、つい“オタク”や“ファン”という大きな主語で物事を語ってしまいがちなわたしたちに、「人と表現はどこまでいっても一対一の関係である」というシンプルな真実を、清々しく伝えてくれる。

では鶴谷さんにとってBLとはどんな存在なのだろう? じっくり考えながら、語ってくれた。


「もしかしたら時代遅れと言われるかもしれないし、いまの若い読者の方はこういうBLの読み方はされていないかもしれないですが、自分が感じている恋愛に対する負い目というか、苦手だなと思っている部分をキャラクターに投影しやすいんですよね、BLって。

あとは性別的なものでしょうか。さすがに“性別なんてなければいいのに”とまでは思わないですが、厄介だなって思うとき、あるじゃないですか。

男も女も本当はそんなに違わないはずなのに、どうしても性別にとらわれて、自分は男だから、自分は女だから、と考えてしまう。そういう悩みのようなものが描いてあるジャンルがBLなのかなと思っています。もちろん読み方は人それぞれで、私はこういう読み方をしているということですが。

いまもなにかはっきりとした結論があって描いているわけではないのですが、普段BLを読んでいる方たちに、この作品を読んでもらいたい気持ちはすごくあります。“自分にとってBLとはこういうものなのですが、あなたはどうですか?”と」