抑えた演技で実力を発揮した波瑠

大野くんの相手役を務めているのは、今年の春までNHKの朝ドラ『あさが来た』でヒロインを演じていた波瑠。パリの五つ星ホテルで働いていたこともある中途採用の社員・柴山美咲役で、真面目で正義感が強く、世話好きの学級委員タイプというキャラクターになっている。

ただ、波瑠が演じる美咲はそんなに極端なキャラ設定にはなっていなくて、一見、感情があまり表に出ない、マイペースな女性として描かれている。それがかえって大野くん演じる零治のキャラクターを際立たせることにもつながっていて、非常に見やすい作りになっているのだ。

それにしても、波瑠は『あさが来た』の直後にも関わらず、この役をすごくうまく演じていると思う。ふつう、あれだけ話題になった作品・役柄のあとだったら、そのイメージを払拭するような、それこそ極端なキャラのほうが演じやすかったような気がする。そこをあえて抑えたキャラにした(できた)のは、下積み時代が長かった波瑠の実力が発揮された部分じゃないだろうか。

いずれにしても、この美咲のキャラクターによって、零治の恋にせつなさも加わって、ラブコメ作品として深みも出ているのは確かだ。

ドラマのテイストを決定づけた小池栄子

『世界一難しい恋』は、30歳を過ぎても本当の恋を知らなかった零治が、美咲を好きになって、何とかその恋を実らそうとする話なのだが、とにかく性格に問題があって、女心も分からない零治にとっては、何をどうすればいいのかも分からない。

そこで零治に恋愛に関するアドバイスをするのが、社長秘書の村沖舞子(小池栄子)と、ライバルホテルの社長の和田(北村一輝)だ。この2人がいなければ、おそらく零治の恋愛はまったく進まなかったと思うが、とくに小池栄子が演じる舞子は、このドラマのテイストを決定づけた最重要ピースといってもいいだろう。

舞子は、かつて零治の実家である旅館で働いていたが、不倫騒動を起こし、解雇されたという過去がある。その後、零治に拾われて社長秘書になり、現在は本当の家族のように零治を支えている。その舞子が、零治のダメなところはダメだとズバッと言うところが見ていても気持ちいいのだ。

零治は、自分が美咲とつき合っているのか、別れているのかも分からないくらい恋愛偏差値が低い男なので、舞子のアドバイスも初歩的なものから恋愛の真理をつくものまでいろいろある。口調はあくまでも秘書なのに、目線は姉か母親のようなものなので、そこがまた面白いのだ。

7話から8話にかけては、舞子が零治のことを好きだという流れもあり、美咲との三角関係になるのでは?という展開もあった。ただ、ドラマとしては、やはり零治と美咲の関係という軸からはブレることなくラストを迎えると思う。そもそも、この舞子の「好き」という感情こそ、今の零治が理解するには、“世界一難しい”問題になっている。