山田孝之はいったいどこに向かうのか?

世の中には知らない方がいいこともある。それこそ、俳優の素顔を知っても仕方がないし、それは逆に作品を観るときの邪魔にしかならない。

松江 山田孝之がスゴいのは、本当か芝居か、ということよりもあの人の“人間力”が上回っているところですね。それも作品の中だけの話じゃなく、社会全体を包み込むような器のデカさがある。

それがいまの国にフィットしているというか、社会が山田孝之を必要としているような気がします。

山下 なんだか選挙演説みたいだね(笑)。

松江 僕はビートたけしさんを知った80年代は、たけしさんだけじゃなく、明石家さんまさんや片岡鶴太郎さん、山田邦子さんといった人たちが楽しいことをグチャ~とやっていて面白かったと思うんだけど、山田くんは彼らと同じように時代に必要とされているというか。

世間がこの人になら騙されてもいいって思える、そういう人のような気がしますね。

山下 本人もメディアで遊ぶのが好きだよね。映画やドラマはもちろんだけど、書籍から歌まで遊び方が徹底している。

松江 そうそう。だから“カンヌ”の後、山田くんがテレビ東京の「破獄」(17)というドラマでたけしさんと共演したときは、やっぱり繋がるんだ~、面白いな~と思って(笑)。

僕はたけしさんにお会いしたことはないけれど、僕らの世代でたけしさんの影響を受けていない人はいない。僕らの下の世代にとって、山田孝之はそんなたけしさんに近い存在なのかもしれないですね。

俳優としての側面が強いけれど、メディアを使って遊んでいて、俳優という枠組みを超えてくる人なんですよ。

山下 「山田孝之の東京都北区赤羽」というタイトルも「ビートたけしの元気が出るテレビ」みたいだったけれど、タイトルに名前をつけてしっくりくる俳優もあまりいない。

松江 タイトルに名前がつくだけでサワザワがする感じがあるよね。たけしさんにも「TAKESHIS’」(05)という映画があったけれど、そういう名前を見ただけでザワザワする人が僕はどうも好きみたい(笑)。

――山田孝之さんは、この先もまだまだ何かをやらかしてくれますかね?

『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』8月4日(金)全国公開 ©2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

松江 やるでしょうね。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(8月4日公開)の山田くんを見ても怖いですもん。

ほかの俳優たちが漫画に似せていたのに、ひとりだけガチな人がいた。ボスターと予告編1カットを見て、この人を入れちゃダメだよと思いました(笑)。

山下 山田くんが幼いときから本当に好きなものは、たぶん漫画と音楽だと思うんですよね。だからそこに対してはまだ慎重で、自分からは簡単に手を出していない。

――今回の映画でも、山田さんは「漫☆画太郎が好き」って言ってますものね。

松江 そう、漫☆画太郎が好きなんです。

山下 だから、少しずつ近づいているけれど、そこはまだまだ慎重だと思います。

松江 本当にリスペクトしていますからね。

――山田さんが漫☆画太郎の「左翼ボクサーのぼる」の主人公・朝日のぼるを演じる劇中のシークエンスも面白かったですが、あの撮影はどんなふうに行ったんですか?

『映画 山田孝之3D』©2017「映画 山田孝之」製作委員会

山下 本人がやりたいと言ったので、ほぼノー演出。漫画を見ながらそれを再現しました。

松江 グリーンバックの前で山田くんが漫画のコマに合うように演じて……。

山下 セリフもまったく変えない。

松江 漫画のまんま全部やってます。

山下 あれはすごい発明だよね。原作者も絶対に怒らないたろうし(笑)。

松江 漫画のまんまだからね(笑)。山田くんの誕生日に撮影したけれど、あれで“カンヌ”のラストカットのボクサーの格好をしていた山田くんが“のぼる”だったんだって分かるんですよ(笑)。

山田孝之が、まだまだ出しきっていないミラクルな可能性

「山田孝之の東京都北区赤羽」から始まった山田孝之と松江哲明監督、山下敦弘監督のクリエイティブな旅は、今回の『映画 山田孝之3D』で完結してしまうのだろうか? いやいや、そんなわけがない。

山田孝之の中には、まだまだ出しきってないミラクルな可能性があるだろうし、松江、山下の中にもこの唯一無二の面白い逸材を使ってもっともっと遊びたいという欲望が渦巻いているに違いないから。

山下 僕はいずれ劇映画を一緒にやると思います。

――漫☆画太郎ですか?

山下 漫☆画太郎はたぶんやらないですね(笑)。今回“のぼる”をやっちゃったし、あれ以外にやりようがない気もするから。

松江 僕も具体的には想像できないですね。“赤羽”でお姉ちゃんが出て、“カンヌ”ではお父さんが出て、今回は山田孝之が自ら自分の幼いころの話や家族の話までしちゃっているから、もうやることがないというのが正直なところです。

――ドキュメンタリーに限定すると、そうかもしれないですね。

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松江 そうなんです。どうしましょうね~。何かと戦ってもらいましょうか?(笑)

山下 アマゾンの秘境に行った山田くんが、ほかの民族と巨大な船を山の上に運びあげる、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『フィッツカラルド』(83)みたいな映画とかね(笑)。

松江 でも、山田くんは何か考えているでしょうね。

山下 そうだね。さっきメディアで遊んでいるって言ったけれど、常に次の遊び場を探している感じがする。映画愛みたいなものはそんなに強くないものの、芝居に対してのこだわりはすごくあるから、役者がやっぱり彼の軸になっているんだろうけど、その反動のように、またいろんなことをやり出すんじゃないかな。僕の場合は山田くんと特殊な関係になっちゃったけれど、劇映画で監督と役者として組んだらまた違う関係性になると思うので、そこも楽しみにしています。

いちばん近くで見てきたふたりの監督も山田孝之の真相&深層をまだまだつかみきれていないようだったが、彼らが作った『映画 山田孝之3D』には本人が無意識のうちにさらけ出した気鋭の俳優の謎を解くヒントが隠されているかもしれない。

それに、完璧に自分をクリエイトして周りの者を欺く彼の魅力は、今回の監督たちの証言でさらに深みを増したような気もする。いま言える確かなことはただひとつ。

山田孝之はとにかく面白いということだけだ。彼はこれからも、私たちのハートをザワつかせるに違ない。

『映画 山田孝之3D』 6月16日(金)より公開

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。