■叫び続ける漫画家――佐藤秀峰が“証明”したいこと
今回のインタビューに限らず、佐藤氏はさまざまな場面で漫画家の立たされている苦境や、出版社から受けた不当な扱いを訴え続けてきた。だから当然のように世間の風当たりも強い。
よくネットなどで見かける批判は“好きなことを仕事に選んだんだから生活が不安定なくらいで文句言うな”という意見。生活保護の不正受給問題でお笑い芸人の低賃金が話題になったときも、同じような批判が出ていた。これについて佐藤氏はどう考えているのだろうか?
「それは必ず言われます(笑)。でも、仕事なのでお金をもらわないと食べていけないですよね。逆に仕事じゃなかったら、知り合いに頼まれて絵1枚とか別にタダでいくらでも描くんですけど。僕は“ちゃんとした対価が欲しい”だけなんです。別に欲張ってあなた(出版社)が持ってるもの全部くれと言ってるわけじゃない」
生き残りが厳しい漫画業界で10年以上も最前線を突き進んできたプロフェッショナルの言葉だけに、重みが違う。実際に佐藤氏の作品を読んだ人なら分かると思うが、どの作品、どのページ、どのコマにも妥協や手抜きが一切ない。まるで作家の魂そのものを原稿へ叩き込んでいるような仕事ぶりに対し、正当な対価が支払われないのだとしたらたしかに問題である。
佐藤氏には時おり、困窮した同業者から相談が持ち込まれるという。我々が取材に訪れたその日も、ちょうど若手の漫画家に相談を受けたそうだ。
「詳しくは言えませんが、酷い条件で契約を強いられているケースはありますよね。より良い契約を結びたいという場合は、無料で相談に乗ってくれる行政書士さんをご紹介したり、紛争を起こすのであれば弁護士さんもご紹介できます。」
契約上の理不尽は業界のいたるところに残っており、立場の弱い漫画家は泣き寝入りを強いられることが多い。だがそれでも、佐藤氏は大きな声で叫び続ける。――その背後にはどんな想いがあるのだろうか。
「僕は行儀の悪い発言をしますし、態度が悪かったりしますけど、結構わざとやってます。このくらい態度が悪くて『出版社なんて無くなってもいい』と散々言ってても、漫画がおもしろければ仕事はあるんですよ。それを“証明”し続けようと思っています」
佐藤氏は笑顔をまじえ、だけど自信に満ちた口調で、そう語った。
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