■実在する“情報屋”とは?

冒頭に挙げた朝日新聞さんの記事。よく取材されてるなと思いました。でもわたし、ちょっと気になったんです。まるで携帯会社の社員が顧客データを直接探偵社に流しているような解説イラストが。「間に入る情報屋さんが抜けてるなぁ‥‥」って。もちろん探偵が情報提供者から直接データを得ているケースもありますが、外部の情報屋を利用している探偵社が多いのも事実です。

ハードボイルド小説の世界だけではありません。現実にも情報屋は存在しています。情報提供者と探偵社の間に入って様々なデータを右から左へ流す「個人情報の問屋」みたいな人達がいるんですよ。彼らが何者なのかは探偵もあまり知りません。情報屋ごとに社会保険データに強い、住民票データに強いという得意ジャンルがありますから、組み合わせて調査の役に立てています。

この情報屋って、本当に謎なんですよ。探偵を開業してメールアドレスやFAX番号を公開しますよね? そうするといつの間にか「個人情報売りますよー」って向こうからコンタクトが来ます。じゃあすぐ調査に使うかといえば、そうでもありません。「この情報屋は本当に使い物になるか」の見極めが先決です。ここから探偵社と情報屋の知恵くらべがはじまるのです。

 

iPhone 4's Retina Display v.s. iPhone 3G / Yutaka Tsutano 拡大画像表示

探偵は会社用の携帯でも何でもいいですけど、あらかじめ契約者のわかっている携帯電話を用意します。それを黙ったまま情報屋に「これの契約者を調べて下さい」と依頼します。もちろん正規の情報料を支払います。

きちんとした情報屋なら、企業の内通者等を使って正確なデータを返してきます。いいかげんでケチな情報屋はコストがかかるデータ調査をせず、その番号に直接電話して本人から聞き出そうとします。これを電調(でんちょう)と言って、確実性が落ちるし相手に不要な警戒心を抱かせるので、探偵にはあまり好かれていない調査法です。安いんですけどねw。「あなたの契約番号から先月分の料金を多く引き落としすぎました。返金したいので念のため契約者様の氏名と住所をお教え下さい」‥‥こんな感じで聞き出すわけですね。ちゃんとデータ調査を依頼したのに、こんな電調をやるような情報屋はダメダメです。もう二度と頼みません。こうした水面下での知恵くらべが終わって、探偵社は初めてその情報屋を信頼するのです。

ところで探偵がわざわざ情報屋を中継して個人データを得るのはどうしてでしょうか? 携帯会社の不良社員を直接買収した方がコストは安く付きますよね。これにもちゃんと理由があります。1つの理由はご想像のとおり、いちいち不良社員を探し当てて交渉する手間が惜しいからです。時間と費用のトレードオフになるわけです。

もう1つの理由の方が重要です。もし何か個人データ絡みで面倒なトラブルがあって捜査機関に事情を聴かれた時でも「いや。うちは情報屋を名乗る業者からデータを買ってただけですから。どうやって調べてたかなんて知りませんよ」とシラを切るため。要するにリスク対策ですね。不良社員を直接買収するのと、メールやFAX経由で情報屋からデータを買っているだけでは、探偵社の潜在的に抱えるリスクは雲泥の差になりますから。

わたし達は子供のころから悪徳商法や誘拐犯の手口を色々教えられます。「知っていることが身を守ることになるのよ!」と大人は言います。でも裏の社会では「あえて知らないこと」が身を守ることになったりするんです。こんなふうに探偵は情報屋をうまく利用しながら、尾行や張り込み等の行動調査も組み合わせて、日々の難解なミッションに挑んでいるのですね。