NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。主人公・渋沢栄一(吉沢亮)は、いとこの尾高惇忠(田辺誠一)らと共に、攘夷決行と幕府転覆をもくろみ、高崎城乗っ取りと外国人が暮らす横濱の焼き討ちを計画。5月2日放送の第十二回「栄一の旅立ち」では、命懸けの計画に挑もうとする彼らの運命を、惇忠の弟・尾高長七郎が大きく左右することとなる。剣豪としても名をはせた長七郎を演じる満島真之介が、役に懸ける思い、第十二回の見どころを語ってくれた。
-長七郎を演じる上で心掛けていることは?
これまで約半年間にわたって長七郎を演じてきましたが、ずっと出ずっぱりの役ではないので、描かれていない部分もたくさんあります。だから、「長七郎は何を感じ、どう考えて行動したのか」という空白の部分を、少ないシーンの中で埋めていく必要があります。そのために、視野を広く持ち、りりしくも心優しい長七郎にするための体作りや心作りを日々怠らずやることに集中しています。
-栄一やいとこの渋沢喜作(高良健吾)たちの兄貴的存在である長七郎をここまで演じてきた感想は?
栄一や喜作、(弟の尾高)平九郎(岡田健史)、惇忠兄たちと長い時間を共にしてきたことで、愛情も深まってきました。顔を合わせるのがうれしく、心穏やかになるような方々とご一緒させていただいていることへの感謝の心であふれています。ただ、撮影が進むにつれ、ちょっとずつ皆さんと会えなくなってきたんです。長七郎が攘夷志士になる一方で、栄一と喜作はこれから一橋家に仕えることになり、生きる道が分かれ、お互いに環境が大きく変わっていく。そんな中、実際に撮影現場で会えない時間が長くなったことで、「彼らはこんなにも離れていたんだな…」と実感しているところです。これも、長い期間、撮影を行う大河ドラマでしか味わえない感情でしょうね。
-江戸での修行を経験して大きく変わった長七郎について教えてください。
長七郎は、江戸に武者修行に行ったことで、顔つきもたたずまいも大きく変わりました。全国あらゆるところから尊王攘夷を唱える思誠塾に集まった志士たちと剣を交え、語り合い、寝食を共にすることで、心身ともに大きな刺激を受け、変化していったのだと思います。現代に例えるなら、田舎から東京の大学に行った同級生が夏休みに帰省したら、ものすごく変わっていた…みたいな感じでしょうか(笑)。そういう経験は少なからず皆さんにもあるはずです。とはいえ、当時の江戸の影響力は、今とは比べ物にならないほどすさまじかったに違いありません。
-5月2日放送の第十二回では、栄一たちの“高崎城乗っ取り”と“横濱焼き討ち”計画を長七郎が命懸けで阻止するシーンが描かれるそうですね。
これは、史実として渋沢栄一さんご自身の年表にも必ず入っている、とても重要な出来事です。「栄一と”命のやり取り“をするのはここだ!」と、撮影に入る前から非常に楽しみにしていました。長七郎は、結婚もしなければ写真も残っていない、歴史上ほぼ知られていない謎の多い人物です。しかし、彼がこの計画を止めたからこそ、みんなが生き残り、その命が現代の日本につながった。だから、役を頂いたときから、あの場面は非常に意識していましたし、そこに至るまでに栄一や喜作、惇忠兄との関係性をどれだけ深めていけるかが大きな課題だと思っていました。
-栄一役の吉沢さんとのエピソードを教えてください。
先日、僕が別の番組の収録でNHKに来たとき、武士の姿をした吉沢くんに偶然会ったのですが、それがもう美しくて、りりしくて…。涙が出そうでした。いや、実はちょっと出ていたんですけど(笑)。久しぶりに会えた喜びと、役と本人が時間をかけて重なり合って生きていることを、心から感じられた瞬間でした。「長七郎と栄一は、もはや全く違うところで生きている」と肌で実感できたことが、これから撮影していく上での力になると思います。離れていても心の奥底でお互いを信頼し、思い合って演じている。それが、物語に深みと奥行きを与えてくれるのではないでしょうか。
-第十二回をご覧になる視聴者にメッセージを。
命を懸けて仲間と向き合うその姿は、尾高長七郎自身の魂が時を超え、未来に向かう私たちに向けたメッセージにもなるはずです。この作品は単なる歴史ドラマではなく、今を生きるわれわれにとって大いなる勇気を与えてくれる貴重な作品だと思います。視聴者の方々に彼らの思いが届くことを切に願っています。
(取材・文/井上健一)