車いす生活を送る身体障害者のクマと人格障害を抱える風俗嬢のミツの恋をつづったポップなラブストーリー『パーフェクト・レボリューション』が9月29日から全国で公開される。本作は、自身も脳性まひを抱えながら、障害者の性の問題に対する理解を訴え続ける熊篠慶彦氏が企画、原案を手掛けた。熊篠氏の十年来の友人でクマを演じたリリー・フランキーと、ミツ役の清野菜名が、作品に込めた思いを語った。
-リリーさんは熊篠さんと友人だった縁で出演されたそうですが、清野さんがオファーを受けた時の感想は?
清野 まだ出演するかどうか決まっていない時に台本をもらったんですけど、一緒に(松本准平)監督のお手紙も添えられていました。そこには「清野さんの明るい笑顔がミツにすごくいいと思うので、ぜひやってもらいたいです」と書かれていたんです。そんなことは初めてだったので、すごくうれしくなりました。台本も本当に面白くて、私は寝落ちしちゃうことも多いんですけど、今回はそんなことはなくて、読んでいるうちにミツが頭の中で動き始めて…。今までそういう経験がなかったので、どんどんミツに引かれていき、クランクインするころには、ずっと前からミツだったんじゃないかという不思議な感覚になりました。
-劇中、クマが講演する場面で「あなたは障害者なんだからそんなことを言っちゃ駄目よ」と言われた体験を話したり、レストランで差別を受けたりする場面があります。その一方、世の中で障害者は“障害者らしさ”を求められたりもします。それはなぜでしょうか。
リリー 障害者だって恋愛もしたいし、性欲もある。それは当たり前のことじゃないですか。これは熊篠が、ノアールという団体の活動を通してずっと訴えてきたことなんです。でもなぜ、熊篠がそんなことを声高に十何年も言い続けなければいけないのかというと、健常者の人が勝手に障害者を聖人化して、「性欲はないし、恋愛なんてしないよね」と思っているから。これは多分、日本独特の感受性だと思います。他国では、カウンセラーやセラピストみたいな人がいて、言いやすい環境があるんですけど。
-2人がテレビの取材を受ける場面では、クマはかぶっていた帽子を取られ、ミツは「もっと風俗嬢らしく」と言われますね。
清野 やっぱり傷つきますよね。ミツとしては傷つくというよりも「なぜそうしなきゃいけないんだろう」という感じだったんですけど、私はミツとしてその場に立っていたので、認められていないなと思いました。差別みたいなものも感じました。
リリー メディアが“何々らしく”しようとするのは、自分たちが理解できる額縁の中にしか入れられない、その人たちの理解力の乏しさからきています。自分が思っている額縁より大きいものはハマらないから、小さく描いて下さいっていう…。それは日本のメディアで多々あることです。それと同時に、熊篠の活動を快く思っていない障害者の方もいます。それはなぜかというと、自分たちに性欲があると分かると、周囲の人たちが冷たくなったりするんだそうです。結局それは、健常者が勝手に“障害者らしさ”というものを抱いているから。でもそれは一番理解がないですよね。
-クマの実家で2人の関係を親戚からいろいろ言われてキレたミツが、おすしを投げる場面は印象的でした。
清野 気が付いたら自然に投げていたんです。
リリー 周りもびっくりしたんですよ。アドリブですしを投げたから。でも実際に、すしを投げつける人がいたら皆びっくりするから、リアクションが自然(笑)。しかも、映画だから何回も撮影するんだけど、全く同じタイミングで同じように投げられるという…。
清野 なんかムカつきましたね、あの時は。やっぱり私はクマピーのことが大好きだったし、ミツは感情がゼロか100の子だったから、言葉にならない感情がバッと出ちゃったんだろうなって…。
リリー ほぼ全編、一緒にいますが、俺もやりやすかったです。ものすごくお芝居がみずみずしいので、こっちの感情をとてもうまく引き出してくれました。何回やっても同じシーンで自然に涙が出たり、同じところで腹が立ったりしましたから。
-清野さんは、熊篠さんご本人と会ってみていかがでしたか。
清野 普通にたわいない会話をしていました。お土産のお守りをくれたりして、ものすごく優しい方です。
リリー 熊篠は基本的に常識人で紳士ですから。ただ、撮影前に車いすダンスのレッスンがあって、俺が行けなくて熊篠が代わりを務めた日があったんです。そうしたらその後、「菜名ちゃんが膝に乗っていました!」って興奮していました(笑)。
-この映画に出演して、ご自身の中で考えが変わった部分はありますか。
リリー それは俺にも菜名ちゃんにも全くないと思います。この映画で何かを啓蒙するつもりはなくて、たまたま主人公が障害者というだけの“エンターテインメント映画”を目指していたので。
-熊篠さんは映画を見てどんな感想を?
リリー 「客観的に見られない」と言っていました。実話の部分が多いから、いろいろなことを思い出すということで。でも、これは熊篠が十何年やってきた活動の一つの節目で、あいつが自分でプロデュースもしているわけだから、いい冥土の土産です(笑)。熊篠と監督がいろいろ考えた結果、辛気くさい映画にするのはやめようという方向に舵を切って、こういうふうに障害者を描いた映画が出来上がった。そのこと自体が日本映画のレボリューションですよ。パーフェクトとは言いませんけど(笑)。
-お客さんにはこの映画をどんなふうに受け止めてもらいたいですか。
清野 本当に撮影は楽しかったし、ばかばかしい部分も多いので、「障害者の映画だから重いんでしょ?」という先入観を持たずに見て、楽しんでほしいです。
リリー こういう題材なので、例えばテレビで「これは障害者の性と愛を描いた映画で…」と紹介されてもちょっと違うし、説明が難しい。だから、「エンタメ映画です」と言うことにしているんです(笑)。これをきっかけに、熊篠が続けてきた活動を知ってもらえたらいいですね。
(取材・文・写真/井上健一)