記者会見時の高橋一生

 誕生日が同じ36歳の男女3人を主人公に、それぞれが人生の壁を乗り越えようとする姿を描いたヒューマンドラマ「THIS IS US 36歳、これから」が、10月1日からNHKで放送開始される。本作は、次々と明らかになる意外な真実や予想をくつがえす展開が話題を呼び、昨年アメリカで大ヒット。先ごろ発表された第69回エミー賞でも主演男優賞を受賞した話題作だ。放送に先立ち、3人の主人公の1人、ケヴィンの声を演じる高橋一生が、海外ドラマ吹き替え初挑戦となる本作での体験から海外ドラマに対する思いまで、幅広く語ってくれた。

-海外ドラマ吹き替え初挑戦とのことですが、他人の英語のお芝居に声を当てた感想は?

 言語やブレスなど、いつもとは違うものをどうしていけばいいのだろうと思いました。最初は周りの方たちに助けていただきながらでしたが、次第にふに落ちるようになり、自分の中で納得してできるようになっていきました。声を当てるというよりは、お芝居をする感覚で収録に臨んでいました。

-普段のお芝居よりも、声が少し高いように感じましたが。

 ケヴィンを演じているジャスティン・ハートリーさんの声が思ったよりも高いので、少し高めにしてみました。僕は普段、お芝居をさせていただくとき、微妙なレベルで声の質を変えているんですが、声だけだとそれが突出して聞こえるみたいです。ディレクターの方から「ちょっと違います」と言われたら調整しようと思っていましたが、大丈夫でした。

-ご自身ではご自分の声をどのように捉えていますか。

 魅力的と言っていただけるのはとてもありがたいことですが、さっきも言ったように、役によって使い分けているので、それほど自分の声に対して執着がないんです。この声が武器だとはあまり思わないようにしています。ケヴィンの声は高めなので、見ている人たちに、これが日本版ケヴィンの声として定着するとうれしいです。

-演じるケヴィンの職業は高橋さんと同じ俳優です。第1話でケヴィンが「俳優としてのプライドを守ったんだ」と叫ぶシーンがありますが、高橋さんにとって、俳優のプライドとは何でしょう。

 プライドを持たないことじゃないでしょうか(笑)。俳優って、1人では何もできないんです。脚本家の方やスタッフの方たちがいないと何も生み出せない。頂けるお話にどれだけ誠実に向き合っていけるかということが大前提として問われていると思うので、まず必要なのはプライドを捨てることだと思います。

-このドラマを初めて見た時の感想は?

 初めて見た時、「これ、本当は日本人の気質なのでは?」と思ったんです。人種や肌の色の違いというものはありますが、そういったものを抜きにして、こういった繊細なドラマは、もともと日本人が得意にしていたものだったのではないか、と。それを今、海外の方たちがやっているのを見ると、「こういうものもできてしまうのか」と感嘆しました。しかもそれを、ネガティブな物語として組み立てていない。家族や恋人、兄弟という題材は出尽くしているかもしれないけれど、それをあえてもう一度、ストレートにやる熱意に感銘を受けました。

-こういうハートウォーミングな作品がアメリカで支持されたことを、どのように感じていますか。

 とてもすてきだと思いました。アメリカという国を僕がどれだけ理解できているのかは分かりませんが、この作品が支持されたということは、この人たちもやっぱり最後は、人のことを愛したい、愛されたいというところに戻っていくんだということが分かりました。

-海外ドラマをよくご覧になるそうですが、どんなところが魅力ですか。

 例えば、脚本家がチームで動いているところなんてすごいと思います。同時進行している複数のチーム同士でコンセンサスが取れていて、お互いがコミュニケーションを取って、次につないでいく…。物語のどこにフォーカスすべきか、どこに重きを置くべきか、ということを的確につかんでいる感じがします。

-そうかもしれませんね。

 脚本だけでなく、カメラワークにしても照明にしても音にしても、それぞれの技術がしっかりエンターテインメントというものに向き合っている気がします。音一つとっても、小声でしゃべっているところをしっかりと拾っていたりしますから。向こうのそういったものが、長年、エンターテインメントに関わり続けてきた人たちがトライ&エラーを繰り返した結果、出来上がったものだと考えると、僕はこれからもお芝居をしっかりやっていこうと思います。

(取材・文・写真/井上健一)