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 ドラマ「最愛」(TBS系)で、主人公・真田梨央(吉高由里子)の初恋相手で、殺人事件を追う刑事・宮崎大輝役を好演した松下洸平。SNS上では“大ちゃん沼”という言葉も飛び交うほど、多くの視聴者を魅了した。

 シンガーソングライターとして2008年にデビューした松下は、翌年にBROADWAY MUSICAL「GLORY DAYS」で俳優デビュー。以来、着実にキャリアを重ねてきた。

 高い演技力はもちろんのこと、シンガーとして培ってきた歌唱力を持ち、さらには絵もうまく、ダンスも踊れる。まさにパーフェクトな俳優だ。そんな松下のこれまでの歩みや、魅力を存分に堪能できる出演作を紹介したい。

 俳優デビュー後の松下は、舞台・ミュージカルを主戦場として活躍してきた。16年には、こまつ座で上演された「木の上の軍隊」に出演し、戦争に翻弄(ほんろう)される若き兵士を熱演。

 18年には山田洋次監督の映画を舞台化した「母と暮せば」に出演し、第73回文化芸術祭の演劇部門にて新人賞を受賞している。同作は、21年5月にも再演された。

 また、11年に日本初演されたミュージカル「スリル・ミー」では、柿澤勇人とペアを組み、喝采を浴びた。同作は、1924年に起きたレオポルドとローブ事件を基にしたミュージカルで、松下は「彼」と共に殺人事件へと突き進む「私」を演じた。

 ステージ上には役者2人とピアノ1台だけという、高い演技力と歌唱力が必要とされる作品で、松下はその後も同作の公演に出演。18年の公演では、第26回読売演劇大賞で優秀男優賞と杉村春子賞を受賞しており、「母と暮せば」とともに彼の代表作ともいえる作品となった。

 法廷シーンから始まり、過去を回想するという物語の同作は、「彼」と「私」の関係性の変化が肝となる。「彼を愛するが故、引きずられるように犯罪を繰り返していく私」という関係性だったはずなのに、物語の後半になると徐々にそのパワーバランスが崩れていく。

 そして、ラストでは衝撃の展開へと発展する。松下の持つ“普通っぽい青年”の空気感が物語にリアリティーを与え、観客を一気に物語に引き込んでいった。

 残念ながら、現在は、公演の映像を見ることは難しいが、14年公演の際に、小西遼生とペアを組んだライブ録音盤のCDが発売されているので、歌声はそこで聞くこともできる。

 映像作品では、12年放送の「もう誘拐なんてしない」(フジテレビ系)で連続ドラマ初出演。19年には連続テレビ小説「スカーレット」(NHK)に十代田八郎役で出演し、“八郎沼”という言葉が話題になるなど、ブレークを果たした。

 八郎は、戸田恵梨香が演じた主人公・川原喜美子の夫。誠実で真面目、優しい性格な上に、男らしさを感じさせる姿も見せ、多くの視聴者を夢中にさせた。

 さらに、20年放送の「#リモラブ ~普通の恋は邪道~」(日本テレビ系)、21年放送の「知ってるワイフ」(フジテレビ・カンテレ系)での好演も記憶に新しい。

 21年は、ドラマ「向こうの果て」(WOWOW)での演技も印象的だった。松下が演じたのは、松本まりか演じる主人公・池松律子の幼なじみ・君塚公平。

 物語は、律子が公平を放火で殺害するところから始まる。律子はなぜ公平を殺したのか。その謎と律子の過去が解き明かされていく。律子に殴られながらも慈愛に満ちた表情を浮かべる姿は圧巻で、一見すると破綻しているかのような関係性であるにもかかわらず、深い愛を感じさせた。

 映画にはあまり出演していない松下だが、21年公開の『燃えよ剣』には斎藤一役で登場。出演シーンは決して多くはないものの、歴史ファンからも人気の高い役を真摯(しんし)に演じた。実は殺陣に挑戦したのは同作が初めてだったが、そうとは思えない堂々とした姿も要チェックだ。

 こうして並べてみると、松下の魅力は、「普通の男」を魅力的に演じられることだと感じる。誠実で真っすぐで、愛情深く、男らしい。どこにでもいそうな、それでいて理想的な男性だ。

 ディテールは多少違うものの、そんな男性像は「スカーレット」の八郎にも、「#リモラブ」の青林にも、「知ってるワイフ」の津山にも、「最愛」の大輝にも通じるところがある。身近に感じられるからこそ、多くの作品で“沼”を生み出すのかもしれない。

 21年12月22日にはミニアルバム「あなた」を発売し、22年にはライブツアーも開催予定と、アーティスト活動にも力を入れている。さらに22年は3月に、cube 25th presents 音楽劇「夜来香(イエライシャン)ラプソディ」に主演することも決定している。

 同作では、第2次世界大戦末期の上海を舞台に、人種やイデオロギーの壁を乗り越え、コンサートを開催しようと奔走する主人公・服部良一を演じる。東京のほか、名古屋、大阪、長岡での公演も予定しているので、ドラマを見て“沼落ち”した人たちには、ぜひ彼の真骨頂である舞台での姿もご覧いただきたい。(嶋田真己)