新曲パフォーマンスから見る、宇多田ヒカル最新の音楽性
1曲目でこのセッションがいかに素晴らしいものであるかを確信した。歌と演奏が影響を与え合って、高みを目指していると感じたからだ。
音のやりとりであると同時に、人と人とのエモーションのやりとりが成立している。1コーラスが終わり、間奏での演奏を経て、歌声にさらに生命力が満ちていくのがわかる。メンバーの奏でる音楽によって、彼女の歌の輝きが増していくようだ。
おそらく聴き手の胸の中でも彼女の歌の存在はより確かなものになっていったのではないだろうか。<私がいるよ>というフレーズに胸を突かれた。
彼女の最新の音楽性がうかがえるセッションでもあった。新作の楽曲がメインということもあるが、生のバンドに影響を受けながら、もしくは影響を与えながら音楽を生み出していく手法は、前作『初恋』の延長線上のものと感じた。
ミュージシャンの演奏の役割が大きくなった『初恋』での変化をさらに推し進めたのが今回のセッションであり、新作『BADモード』ということになるのではないだろうか。
彼女の歌の大きな魅力となっているのは純度の高さだ。不純物が入っていない。その純度の高さを、多くの人数が参加しているバンドサウンドの中で、しかもセッションによって、実現しているところが素晴らしい。参加ミュージシャンたちとの深いレベルでの理解とリスペクトがあるから、そしてまた、歌い手としての着実な歌唱力の向上があるからだろう。
吹き抜ける風のようだと感じたのは「One Last Kiss」。彼女の歌が素晴らしいのは、悲しみと喜びを二項対立で捉えていない点にあると思うのだ。すべての感情は渾然一体となっている。深い悲しみの奥底にも喜びの記憶が潜んでいる。悲しみを受容することは奥底にある喜びの記憶をさらに深く刻むことでもあるだろう。
彼女の歌声が多くの人々の胸を打つのは喜怒哀楽などの感情の深層にある、より根源的なものがダイレクトに伝わってくるからだと思うのだ。だからこそ、彼女は一瞬の中にある永遠を歌に刻むことができるではないだろうか。この曲ではキーボードを弾くシーンもあった。
Ruth O'mahony Brandyの繊細なピアノで始まった「君に夢中」も根源的な愛の歌として響いてきた。低音による表現力の豊かさは彼女のシンガーとしての成長のひとつの現れといえるだろう。「誰にも言わない」のメロディの波をたゆたうような歌声とフェイクも見事だった。
どの曲からも彼女とバンドのメンバーの音楽の波動のようなものを感じた。歌声と楽器の音色の混ざり合いの美しさも堪能した。メンバーの演奏する気配や空気を的確にとらえた映像も見事だ。
『初恋』収録曲「あなた」でピアノを弾いていたReuben Jamesが加わった「PINK BLOOD」「Face My Fears (English Version)」などでもセッションのスリルを味わった。『Exodus』収録曲の「Hotel Lobby」では遊び心あふれる歌とリズミカルな演奏が楽しかった。
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