子役と言ったら、いったい誰を思い浮かべるだろうか。杉田かおる、斉藤こず恵、吉岡秀隆、中嶋朋子、小林綾子、間下このみ、安達祐実、伊藤淳史、野村佑香、えなりかずき、上脇結友、柳楽優弥、成海璃子、志田未来、福田麻由子、美山加恋、森迫永依、今井悠貴、大橋のぞみ、佐々木麻緒、濱田龍臣、八木優希、加藤清史郎、石井萌々果……。挙げていったらキリがないが、世代によって思い出す子役も違うだろう。
今ならやはり芦田愛菜と鈴木福。それから、長澤まさみと共演したCMの「先生、カルピス作って」で一気に注目を浴びた小林星蘭。『美しい隣人』『名前をなくした女神』『全開ガール』と今年はドラマに出ずっぱりだった谷花音。この4人が2004年生まれで、今もっとも旬な子役と言っていいだろう。芦田愛菜にいたっては、その仕事量も尋常ではなく、7歳にしてまわりの大人に気を使った営業スマイルまで会得している。
そんな子役の歴史に一時代を築いたのが、テレ朝系金曜11時15分から放送している『11人もいる!』に出演中の神木隆之介だ。1993年生まれなので、志田未来、大後寿々花、後藤果萌、菅野莉央、ジャニーズで言えば山田涼介、知念侑李、中島裕翔らと同い年で、今年18歳になった。
神木隆之介のデビュー作は、まだ6歳だった1999年の『グッドニュース』。……ということになっているが、2歳から劇団に入っているので、もっと前からちょこちょこ仕事はしていたような気がする。『グッドニュース』は、映画制作会社に勤める主人公の丈一を中居正広が演じたドラマで、神木隆之介は鶴田真由が演じるバツイチ編集者・明子の息子役。丈一と明子はすぐに結婚するというストーリーだったので、神木隆之介もほとんど出ずっぱりだったが、この時すでにフツーに演技ができていた。
残念ながらこの『グッドニュース』はDVD化されておらず、探せばどこかでビデオをレンタルできるかも、という状態。そこで昔の神木隆之介を見たい人にオススメなのが、翌2000年の『QUIZ』だ。財前直見主演のスタイリッシュな刑事サスペンスで、結末には賛否両論あるものの、『ケイゾク』や『SPEC』が好きな人にはたまらない作品となっている。この作品で神木隆之介は……、いや、これは結末にも関係することなので黙っておこう。ちなみに、植田博樹がプロデュースするこのシリーズは出演者がかなりかぶっていて、神木隆之介ものちに一十一(にのまえじゅういち)という役で『SPEC』(2010年)に登場し、バッタバッタと人を殺していた。
『QUIZ 1』
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2000年は『涙をふいて』という作品にも出ていた。江口洋介が演じる主人公が、亡くなった先輩の子供たちを引き取って育てる話で、長男が二宮和也、長女がブレイク前の上戸彩、末っ子が神木隆之介だった。とにかく、この頃の神木隆之介は、もし天使がいるとしたらこんな声をしているんだろうなあ、と思うような声で世の中の大人たちを魅了していたのだ。
2004年の映画『お父さんのバックドロップ』、2005年の映画『妖怪大戦争』(日本アカデミー賞新人俳優賞)あたりになると、ドラマをあまり見ない人たちにも広く知られるようになり、“天才子役”がデフォルトの形容詞になっていった。そして、2005年4〜6月期のドラマ『あいくるしい』で、神木隆之介は大人の階段をひとつ登ることになる。なんと、キスをしたのだ。
『あいくるしい 1』
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『あいくるしい』は野島伸司脚本のホームドラマで、市原隼人、綾瀬はるか、小栗旬、沢尻エリカ、原田美枝子、竹中直人、桜井幸子、南果歩など、今見るとやたら豪華なキャスティングで作られた作品だった。その中で神木隆之介は友達と「虹色の戦士」というものを結成するのだが、そのメンバーが、本郷奏多、大後寿々花、後藤果萌、志保、春山幹介、中屋力という子役たちだった。で、神木隆之介のキスの相手となったのは、この中の後藤果萌。幼稚園児くらいのキスなら可愛い印象で済むが、11〜12歳のキスはかなり刺激的で、見た時は放送コード的に大丈夫なんだろうかと心配にさえなるシーンだった。
少し大人になった神木隆之介は、2007年に14歳で初めての連ドラ主演を果たす。2006年に単発で放送された『探偵学園Q』が翌年に連ドラになったもので、この作品では同い年の志田未来、山田涼介とも共演している。その後の活躍は記憶に新しいので割愛するが、知的障害をかかえる岳という役を演じた2008年の倉本聰作品『風のガーデン』は、神木隆之介が出演しているかどうかは関係なく、死ぬまでに一度は見ておいた方がいいドラマなのでオススメしておく。
『風のガーデン DVD-BOX』
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さて、そんなこんなで、今期は『11人もいる!』である。宮藤官九郎が脚本を担当する大家族ホームコメディで、当然、現役の子役もわんさか出ている。ちなみに、タイトルは萩尾望都の「11人いる!」をパロっていると思われるが、このドラマの11人目は地球統合政府から送り込まれた大佐ではなく、幽霊のメグミ(広末涼子)だ。
舞台となる真田家には、父親の実(田辺誠一)、後妻で現在の母親である恵(光浦靖子)、そして神木隆之介が演じる長男・一男を筆頭に、8人の子供がいる。末っ子の才悟(加藤清史郎)だけが恵の子供で、あとの7人は前妻であるメグミの子供。しかも、幽霊のメグミは才悟にしか見えないという設定だ。だから才悟が家族会議に集まった家族の人数を数えると、「11人もいる!」ということになってしまう。まあ、実際は実の弟・ヒロユキ(星野源)や、恵の父親でもあり母親でもある兎(きたろう)など、真田家には常に人が出たり入ったりするので、数えるたびに人数が変わったりするんだけど……。
とにかく、父親の実は貧乏なカメラマンで生活能力がないかわりに、生殖能力は格段にあり、典型的な貧乏大家族になっている。で、その家族の長男・一男を演じる神木隆之介が、このドラマでまた大人の階段を登ったのである。そう、次は初体験だ。
相手はバイト先の先輩・ソアラ(野村麻純)。かなり勢いに任せた初体験だったが、コメディなので、かつての宮藤官九郎作品『ぼくの魔法使い』と同じように、そのシーンはスペースシャトルの発射映像やら花火の打ち上げ映像やらで表現されていた。まあ、子役時代から知っている視聴者からすれば、生々しくなくてよかったと思う。しかも、この一度の関係でソアラは妊娠。そこは一男も父親似なのだ。
ということで、天使のような声をしていた天才子役・神木隆之介も、ついにパパになった。ドラマのストーリーとしてはまだいろいろなトラブルが続いているが、最終的にはソアラも子供を産んで家族になると思う。なんといっても大家族ドラマなので。
この『11人もいる!』は宮藤官九郎の作品らしく、シリアスな問題も日常の中でさらりと描かれているのがいい。全体の仕上げに関してはやや雑な部分もあって残念なんだけど、笑って泣けるというスタイルは維持している。いずれにしても、この作品も神木龍之介の青春の1ページになることは間違いない。