ひょんなことがきっかけで意気投合した高校生の美波(上白石萌歌)ともじくん(細田佳央太)。美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、2人は幼い頃に行方が分からなくなった美波の実の父(豊川悦司)を捜すことになる。田島列島の同名コミックを、『南極料理人』(09)『横道世之介』(13)の沖田修一監督が映画化した『子供はわかってあげない』のBlu-ray&DVDが、3月2日からセル&レンタル同時スタートとなる。それに合わせて、本作について沖田監督に話を聞いた。
-今回は人気コミックの映画化でした。監督はオリジナル物と原作物を交互に撮っている印象がありますが、何か違いはありますか。
原作があっても、脚本を書いていれば、結局自分のものになると思ってやっています。だから、どちらもあまり変わらないと思います。ただ、オリジナルの方が、最後の答えがないようなものと向き合っている気がします。逆に、原作のあるものは、原作に一つの答えというか、正解がある。そういう意識の違いがあると、作り終わってから気付く感じです。作っている最中は、そういうことは全く考えていません。
-この映画は、上白石萌歌さん、細田佳央太さんを中心に、魅力的な俳優たちがそろっていて、彼らをずっと見ていたい気分になりました。監督の映画の多くは、ある意味で群像劇だと思いますが、演出のコツは?
脚本の段階から、登場人物の皆に光が当たるようにという気持ちでいるので、そういうふうに見えるのかもしれません。あとは、僕は俳優さんと一緒に話しながらワイワイやるのが好きなので、その中で、ちょっとした役でも皆で名前を決めたり、いろいろな意見が出てきたりもするので、そういう雰囲気が映画に出ると、何か群像劇っぽいものが見えてくるのかもしれないと思います。
-監督の映画は、独特の間や緩いテンポの中、シュールで不思議なユーモアが漂い、現実とファンタジーの境目を描きながら、ほのぼのと明るいという共通点があると思います。自分は勝手に「沖田ワールド」と呼んでいますが、いつもどういうことを意識しながら映画を撮っているのですか。また、何か共通性はあるのでしょうか。
別に緩い映画を作るつもりは全くなくて(笑)、自分の中では、割と張り詰めたところで撮っているつもりです。ただ、今回も、楽しい、笑えるような映画を作りたいと思っている中で、自分も撮っていて楽しい方がいいし、という感じでいくと、割とコメディーっぽい映画が好きで、ずっと見てきたりもしたので、そういうものに影響されて撮っているところはあったかもしれません。
-この映画は、青春映画、家族映画、いろいろな見方ができますが、今回の狙いどころは?
そもそも、田島列島さんの原作の世界観が面白くて、好きだったので、そういうところを大事にしながら、それを映画に持ち込もうと思いました。かといって、原作通りではないやり方だったので、田島さんが書かれた原作の楽しさみたいなところを、ちゃんと映画でも出せるようにと思いながらやっていました。
原作は、結構深刻な話を軽やかに描いているところもあって、家庭環境の物語は割と重くなりがちなのですが、刺激的なものが多い中で、そうではない方法で、疑似家族を描いている田島さんのタッチに自分も共感するところがあったので、題材が自分のやり方と合うんじゃないかなと思いました。田島さんのタッチを自分なりの映画にしてみる面白さを感じました。決して明るいだけではなくて、近づき方がずるい。何か酔っ払いながら近づいてきて、急に刺されるみたいな(笑)。そういう感じを映画でもやりたいと思いました。
-監督の映画は、この映画も含めて、家族を描くものが多いですが、何かこだわりはありますか。
一貫して、生活感やコメディーを映画にしたいという思いがあります。家族物がそれをやりやすいというか、生活感を出しやすいと思っていて、その中でコメディーを展開させるのが楽しいんです。皿洗いとか、生活感があるものが撮りたいです。そういうのが大好きです。
-家族とコメディーというと、『男はつらいよ』などがありますが、監督自身が好きな映画は何かありますか。
森田芳光監督の『家族ゲーム』(83)や石井聰亙監督の『逆噴射家族』(84)のような、壊れていく、訳の分からなさが好きで、よく見ていました。『逆噴射家族』にはすごく影響を受けています。
-「人は教わったことなら人に教えられる」「誰かに教わったことを、また誰かに教えて、そうやって世の中はできているんだな」など、印象に残るせりふが多かったのですが、これは原作からの引用ですか、それともオリジナルでしょうか。
基本的には、原作にはないせりふを映画でやりたいと思って、脚本家のふじきみつ彦さんに書いてもらいました。ただ、今挙げられたせりふは全部田島さんのものです(笑)。田島さんの原作は印象に残る言葉が多いので、原作が好きな方は「この言葉がないのか」とか、そういう見方をするかもしれないぐらい、強いワードが出てくる原作でした。僕も「人は教わったことなら人に教えられる」は本当にそうだと思うし、映画でも出したいと思う言葉でした。
-では、今回はふじきさんに助けられたところもあったのでしょうか。
一緒に仕事をするのは初めてでしたが、ふじきさんは、シティボーイズさんのコントも書いていらして、僕もシティボーイズが好きで、コントを見て面白いと思っていたので、何となく気持ちは分かってもらえるだろうと。しかも、原作の田島さんもシティボーイズが好きで、原作の中にもちよいちょいシティボーイズが出てくるんです。好みが一緒なのだから、ふじきさんには、もう好きに書いてもらおうと。シティボーイズでつながったんです。僕の映画に必ずきたろうさんが出てくるのもそういうことです(笑)。
-この映画は、これまで監督が撮ってきた映画の中で、どういう位置づけになるのでしょうか。
一本、一本、面白そうだなと思って撮っているだけなので分からないですね。ただ、比較的楽しい部分に振り切った映画だったと思いますし、今までやったことがないことにチャレンジできた映画だったとも思います。それに、高校生の女の子が「好き」っていうラストシーンは、オリジナルではとても思いつかない気がしていて(笑)、女性の原作者が書いたところの雰囲気に寄せていると思います。10代の女の子の気持ちになって脚本を書き直しましたけど、やっぱり分からないですね(笑)。でも、自分じゃない、10代の女の子の気持ちを、44歳のおっさんが描くというのは楽しかったです。今回は、青春映画を真正面からやったという感じです。
-改めて映画の見どころを。これからDVDで映画を見る人にも一言お願いします。
ひと夏の夏休みを描いた映画ですが、いつ見ても楽しい気分になれるような映画になったと思います。僕自身も、たまにもう一度見たいなと思うぐらい、楽しい、好きな映画になったので、この映画を長く大事に思ってくれる人が、一人でも多くいてくれたらいいなと思います。どこかで、「そういえば」という感じで思い出してもらって、愛されるような映画になってくれればいいと思います。
(取材・文/田中雄二)