この箱が理解度を20%向上させる

机の上に大きめの箱がある。横120mm、奥行き120mm、高さ90mm。上にはこれまた不自然に大きなボタンが一つ。前面には何かのカードを差し込めるフォルダー。見るからに怪しい。ボタンを押して一体何を起動させるというのか。物騒なものでなければいいのだが……。PCにUSB経由で接続して使うこの箱。その名も「がってんボタン」。あの西和彦氏が率いるIoTメディアラボラトリーと各種センサーモノを得意とするシステムジャパンが共同開発した。オンライン講義の理解度を高めるなどの効果があるという。

ZOOMなどを使ったオンライン講義はコロナ禍で必要に迫られて急激に広がった。外出自粛の環境下でも何とか学校の機能が果たせるようになった反面、問題点も多い。顔出しで出席するルールの講義でも、教師側からは、2ページ目以降の画面にいる学生はほとんど見えない。それをいいことに、最初に接続だけして、あとはどこかに行ってしまう者も。オンライン講義は、対面方式に比べ、緊張感や参加しているという感覚も乏しい。寝落ちすることもあるだろう。まじめに参加していたとしても、なかなか理解が進まない。教える側、教わる側双方にとって、便利ではあるが非効率な形式だということができる。

オンラインであっても、ソフト上は「手を挙げる」機能を使って、学生に当てて質問に答えさせたり、学生の側から疑問点について質問したりすることもできる。ところがこうした機能は、十分活用されているとはいいがたい。「分かった人は手を挙げて」といった、授業中によくある瞬時に答えを求めるコミュニケーションも、オンラインだとなかなかスムースにできないからだ。小さいアイコンにマウスカーソルを合わせてクリックするだけだが、実際に手を挙げる瞬時の動作に比べれば何倍も時間がかかる。

そこで「がってんボタン」だ。「わかった人はボタンを押して」ですむ。応答速度なども計測でき、誰が一番早く押したか、何回押したかといったデータが即座に教師のPC画面に表示される。カード式の学生証をフォルダーに差し込めば出席がわかる。さらに近接センサーも内蔵しており、だいたい周囲1メートルに人がいるかどうかも検知する。学生証だけ挿し込んでどこかに消えてしまう不届き者も容易に発見できるわけだ。まだ試作段階だが、システムジャパンの七里芳輝 代表取締役は「多少荒っぽく使っても壊れにくい丈夫な構造を追求したことで、大きめの箱にボタン1個というシンプルな構造を採用した」という。効果も大きい。IoTメディアラボラトリーの西和彦 理事長は「『がってんボタン』を使って行った講義は、通常の講義に比べ20%も理解度が高く驚いた」と話す。

VRゴーグルを使った、現実さながらのオンラインコミュニケーションも注目を集めている。とはいえ、会議や講義への導入はまだまだ現実的ではない。一見、箱にボタンを付けただけという「がってんボタン」の方が、よりコミュニケーションの効率化や高質化をもたらすのかもしれない。オンラインコミュニケーションが急速に広がって3年目。こうした周辺機器は、さらに生まれそうだ。(BCN・道越一郎)