『#マンホール』(2月10日公開)
不動産会社で営業成績ナンバーワンの川村俊介(中島裕翔)は、社長令嬢との結婚も決まって将来を約束されていた。ところが、結婚式の前夜、渋谷で開かれたパーティーで酔っぱらい、帰り道にマンホールの穴に落ちてしまう。
深夜、川村は穴の底で目を覚ますが、脚を痛めて思うように身動きが取れず、スマホのGPSは誤作動を起こし、警察に助けを求めてもまともに取り合ってもえらえない。
何とか連絡が取れた元カノ(奈緒)に助けを求めることができたが、自分のいる場所がどこかも分からない川村は、「マンホール女」のアカウントをSNS上で立ち上げ、フォロワーに助けを求めながら脱出を試みるが…。
なぜかマンホールに落ちてしまった男の苦闘を描いたシチュエーションスリラー。岡田道尚のオリジナル脚本を熊切和嘉監督が映画化。
スマホやSNSがなければ成立しない話で、甚だ現代的だと思われるが、それは道具立てで、実はオーソドックスなスリラーやコメディーの要素がちりばめられている。
だから、例えば「世にも奇妙な物語」に出てきそうな話だと思えたり、イッセー尾形の「ヘイ、タクシー」という一人芝居(タクシーがつかまらない深夜の街で、暖を取るために入ったビルとビルとの隙間から出られなくなる酔っ払いの話)のことなどを思い出したりもした。
また、ひょんなことから、ビルの11階の窓の外に出てしまった主人公が、必死に部屋に戻ろうとする様子を描いた、ジャック・フィニイの短編小説「死人のポケットの中には」などもある。
あるいは、最近の、電話の声と音だけを頼りに、事件解決に挑む緊急通報指令室のオペレーター警官の一人芝居『THE GUILTY ギルティ』(18)や、全てがパソコン画面で展開する『search サーチ』(18)とも通じるものがあると感じた。
とはいえ、アイデア勝負のワンシチュエーションのドラマとしては、なかなかよくできていると思ったし、多少強引ではあるが、意外な真相が明らかになる、ラストのどんでん返しも楽しめた。
汚れ役ともいえる中島の“一人芝居”が見もの。熊切監督は「自分にとっても、中島くんにとっても、新たな挑戦だった」と語っている。
『銀平町シネマブルース』(2月10日公開)
あるトラウマを抱え、青春時代を過ごした銀平町にやって来た一文無しの映画監督・近藤(小出恵介)は、映画好きの路上生活者・佐藤(宇野祥平)、商店街の一角にある映画館・銀平スカラ座の支配人の梶原(吹越満)と知り合ったことをきっかけに、銀平スカラ座でアルバイトとして働くことになる。
近藤は、同僚のスタッフ(藤原さくら、日高七海)や、ベテランの映写技師(渡辺裕之)、売れない役者(中島歩)やミュージシャン、映画の世界に夢を見ている中学生など、個性豊かな常連客との出会いを通じて、自分と向き合い始める。
監督・城定秀夫、脚本・いまおかしんじが、経営難の映画館を舞台に、そこに集う人々の人間模様を描いた群像悲喜劇。撮影は、埼玉県川越市にある老舗ミニシアター・川越スカラ座などで行われた。
映画評論家・水野晴郎の決めぜりふ「いや~、映画って本当にいいもんですね」ではないが、この映画にも「映画っていいじゃないか、いいもんだろ」(佐藤)、「映画っていいですよね。いいもんですよね」(近藤)というせりふのやり取りがあるように、全編に映画や映画館に対する愛があふれている。それも声高に叫ぶのではなく、じわじわといった感じなので、余計心に響く。
『カサブランカ』(42)のほか、映画内映画として、近藤監督のホラー『はらわた工場の夜』と新人女性監督の悲喜劇『監督残酷物語』の断片が上映される。この2本の“全編”が見たいと思わせるところが、この映画の真骨頂ではないか。
また、ブランクがあった小出と、昨年亡くなった渡辺の姿が、現実と重なるところがあり、しかも2人とも好演を見せるので、感慨深いものがあった。
今年の前半は、ドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(1月13日公開)、インド映画『エンドロールのつづき』(1月20日公開)に続き、1920年代のハリウッドを舞台にした『バビロン』(2月10日公開)、80年代の映画館を舞台にした『エンパイア・オブ・ライト』(2月23日公開)、スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的な『フェイブルマンズ』(3月3日公開)といった、映画や映画館への愛をうたった映画が目白押し。
そこに、この映画と、70年代を舞台に、映画制作に情熱を燃やす高校生たちを描いた『Single8』(3月18日公開)も加わる。
(田中雄二)