完全ワイヤレスイヤホン(TWS)市場の成長が鈍化している。2023年の月間販売台数は前年割れか前年並みにとどまっており、以前のような勢いが感じられない。家電量販店・ネットショップの実売データを集計する「BCNランキング」で明らかになった。
TWS市場は、21年6月から22年11月まで、ほぼ毎月前年を上回って推移。特に21年9月からの9か月間は2ケタ増と活況を呈した。しかし22年6月、「97.5」と前年を割ったのをきっかけに潮目が変化。12月に「91.4」、2月には「88.6」など、4か月間連続で低調な動きが続いた。4月と5月は前年並みまで持ち直したものの、直近6月は「95.6」と再び前年を割れた。
スウェーデンEARINが2015年10月に世界初のTWS「Earin」を発売して8年足らず。以降、数多くの製品が登場し、所有者も増えてきた。需要の中心も新規より買い替えに移りつつある。「AirPods」シリーズで市場を強力にけん引してきたアップルも、競争の激化でレッドオーシャンと化した市場では、かつてほどのシェアは取れなくなってきた。伸び悩む市場を再び活性化することはできるのか。カギはやはり新製品だ。注目はソニーの「WF-1000XM5」。9月1日に発売する。大ヒットした「WF-1000XM4」の後継機で、同社は「世界最高ノイズキャンセリング」性能を備えるとしている。TWS差別化の最も大きな要素の一つがノイズキャンセリング機能。「効き」次第によっては、大いに買い替え需要を刺激できるだろう。価格のバリエーション拡大も需要喚起には有効だ。JVCケンウッドやオーディオテクニカなどは、アップルやソニーと競合しない価格帯の製品を投入。着実にユーザーを増やしている。TWSのようにまだ伸びしろのある発展途上のカテゴリでは、新製品の魅力とマーケティングの妙が市場の勢いを大きく左右する。メーカー各社の奮闘に期待したい。
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。