『オペレーション・フォーチュン』(10月13日公開)
英国諜報局MI6御用達の敏腕エージェント、オーソン・フォーチュン(ジェイソン・ステイサム)に下された新たなミッションは、100億ドルで闇取引されるとてつもなくヤバいブツ=“ハンドル”の行方を追跡し、回収すること。
オーソンはMI6のコーディネーター・ネイサン(ケイリー・エルウィス)、毒舌の天才ハッカー・サラ(オーブリー・プラザ)、新米だが万能なJJ(バグジー・マローン)という即席チームを率いて行動を開始する。
そして能天気なハリウッドスターのダニー・フランチェスコ(ジョシュ・ハートネット)を無理矢理巻き込み、ダニーびいきの億万長者で武器商人のグレッグ(ヒュー・グラント)に接近する。次第に明らかになっていく巨大な陰謀をフォーチュンたちは阻止できるのか? そして、最高機密“ハンドル”の正体とは…。
ガイ・リッチー監督とステイサムの5度目のタッグ作となったスパイアクション。主人公であるオーソンを中心にした集団スパイものではあるが、「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズのような緊張感は少ないし、ステイサムのアクションも控え目だ。
だが、その分「最高のスパイは映画スターだ」「現場に来たなら靴を汚せ」といった会話の面白さも含めてコミカルなタッチが楽しめる。リッチー監督は「スパイ映画の緊張とコメディーの弛緩(しかん)の中間点を見つけること」を心掛けたという。『明日に向って撃て!』(69)へのオマージュシーンもある。
加えて、スパイ映画の常道である、ロンドン、モロッコ、マドリード、ロサンゼルス、カンヌ、トルコ、ドーハと、高級リゾート地を転々とするぜいたくなロケーションは見もの。
また、メンバーそれぞれの個性も面白い。特に、能天気なハリウッドスターのダニーと武器商人でありながら戦争孤児のために尽力するグレッグのキャラクターは傑作。演じるハートネットとグラントの好演も光る。ちなみに、スマートなJJを演じるバグジー・マローン(『ダウンタウン物語』(76)の原題と同じ名前)は有名なラッパーとのこと。
これだけ魅力的なメンバーがそろうと「ミッション:インポッシブル」のようなシリーズ化もあり得るかもしれないと思えてくる。
『春画先生』(10月13日公開)
「春画」の研究者で、「春画先生」と呼ばれる芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれて以来、世捨て人のように研究に没頭する日々を過ごしていた。そんな芳賀から春画鑑賞を学ぶことになった24歳の春野弓子(北香那)は、春画の奥深い魅力にのめり込んでいくと同時に、芳賀に恋心を抱くようになる。
やがて、芳賀が執筆している「春画大全」の完成を急ぐ編集者の辻村(柄本佑)や、芳賀の亡き妻の姉である一葉(安達祐実)の登場によって、波乱が巻き起こる。
江戸文化の裏の華である春画に魅せられた型破りな師弟コンビが織りなす春画愛を描いたコメディー。原作・脚本・監督は塩田明彦。映倫審査ではR15+に指定され、商業映画としては日本映画史上初めて無修正の浮世絵春画が上映される作品となった。
春画を教える人と学ぶ人という正統派の芸術映画を想像すると肩透かしを食らう。芳賀はむっつりスケベで、弓子は見かけによらず直情型で性に対する奔放さを持っている。その2人の欲望に対するズレが生み出すおかしさがこの映画の真骨頂。そこに、春画を仲立ちとした先生(男)と生徒(女)の偏愛や、変態性と純愛が交錯する性的倒錯が描かれる。
もっとも、ストーリーの流れには脱線が多く、登場人物の行動にも支離滅裂なところがある。また性描写にも笑うに笑えないものがあり、本来目指したであろう、“笑い絵”と呼ばれる春画を媒介とした艶笑コメディーに成り切れていないのが残念だった。
(田中雄二)