「9年ぶり」「ノイズ&打ち込み導入」「このアルバムでメンバー3人が脱退」などさまざまな枕詞が踊る、銀杏BOYZの2枚のニューアルバム『光のなかに立っていてね』『BEACH』。バンドとして変わった部分と変わらない部分、9年も経てばさすがに色々あるのだが、「銀杏BOYZでしか鳴らせない、代替しようがない音楽”しか”鳴っていない」という点において、今回の2作『光のなかに立っていてね』『BEACH』は紛うことなき傑作だ。

銀杏BOYZは今作に限らず9年前から一貫して、聴き手が真正面から一対一で向き合わざるを得ない、一度プレイボタンを押した者を問答無用で「当事者」にしてしまう音楽を作り続けてきた。それは今作でも変わっていない。むしろバンドとして「他人に音を届ける密度と精度」はますます高まっている。その過程で手に入れた新たな武器がノイズであり打ち込みなのだろう。

 

銀杏BOYZの音楽は一度耳に触れたが最後、聴かなかったふりをして素通りすることができない。だから彼らの音楽を受け取るとき、人はある種の心構えを持って対峙することになる。

現在ツイッターで「銀杏BOYZ」と検索すると、100人100通りの「銀杏BOYZ論」が繰り広げられていて、まさに賛否両論が渦巻いている。その中には「青春が終わった」「さようなら銀杏BOYZ」というように、ひとつの季節の終わりを感じている人も少なくないようだ。

これは別の言い方をすると、彼らに季節の終わりを告げる存在はやはり銀杏BOYZしかいなかったということだ。銀杏BOYZの不在によって生まれたリスナーの心の隙間を埋める新たな存在は、9年という長い時間を持ってしても音楽シーンにはついに現れなかった。このアルバムを受け入れられなかった人にも、銀杏BOYZが銀杏BOYZとしてこのアルバムできっちり落とし前をつけたことは、作品の隅々から伝わるはず。

本作を傑作と信じて疑わない自分を含め、聴く人それぞれの耳に、それぞれの『光のなかに立っていてね』『BEACH』が、銀杏BOYZの音楽が聴こえている。その響きは銀杏BOYZがいなければ存在し得なかった音であると同時に、あなたがいなければ存在し得なかった音だ。

世界であなただけが聴くことができる「2014年の銀杏BOYZ」は、さてどんな音を鳴らしているだろうか。焦る必要はない。9年分の想いを胸に、これからじっくり向き合っていこう。