有機ELテレビが大苦戦している。一時はコロナ特需に沸いたテレビ市場。コロナ明けに伴って人々の目が「外」に向くようになると一転、反動減に苦しんでいる。特に単価が高い有機ELテレビの落ち込みが激しい。この1月、販売台数は前年同月比で約2割減少。液晶テレビもマイナス基調だが、有機ELテレビの減少スピードはさらに速い。この市場縮小をもたらしたのは誰か? 逆風の中でも健闘しているのは誰か? 全国の家電量販店やオンラインショップ2300店舗の実売データを集計するBCNランキングで明らかにする。
日本のテレビ市場で、有機ELテレビの販売台数は1割前後。残りの約9割を液晶テレビが占めている。液晶テレビは20型未満の小型から80型を超える超大型まで、バリエーションが幅広く市場も大きい。一方有機ELテレビは、42型以上の大型モデルのみ。しかし、自発光方式で映像のブレが少なく、色のメリハリがあるなどのメリットを有する。そのため液晶テレビより高価で、一段上のテレビを求める人たちの受け皿として機能してきた。21年頃までは、コロナ特需で前年比180%を超える大幅な伸びを記録する場面もあった。しかし、コロナ禍も終息したこの1年では、反動減でマイナス基調に反転。販売台数が前年を上回った月は昨年11月だけだ。多くの月で2桁割れで推移しており、昨年5月は75.9%と大幅な前年割れを喫した。足元1月の販売台数前年同月比は、81.0%と、2割近くも販売を減少させた。液晶テレビが96.3%と一桁減で踏ん張るなか、有機ELテレビは厳しい状況が続いている。
減速の一因がソニーだ。22年は圧倒的な販売台数で、年間を通じてトップシェアを維持していた。しかし昨年6月を最後にトップから転落。この1月は、販売台数シェア16.9%で3位まで後退した。販売前年比は台数で41.9%、販売金額でも51.6%とざっくり半減かそれ以上だ。特に、最も売れ筋の55型が38.4%と、前年比で6割以上も減少しているのが目立つ。かつてのトップランナーの失速が、市場全体に大きな影響を及ぼしている。ソニーに次いで、TVS REGZAの縮小も大きい。この1月の販売台数前年同月比は60.8%とほぼ4割減。同社縮小の主な要因は48型。31.0%と7割も減少した。主力の55型は微減にとどまったが、65型は68.3%と3割減。こちらも足を引っ張っている。
一方で、売り上げを拡大させているのがシャープだ。1月の販売台数シェアは35.9%とダントツ。昨年9月から5か月連続でトップの座を維持している。さらに、11月に記録した過去最高の34.2%を抜き、同社の最高記録も塗り替えた。1月の販売台数前年同月比は145.8%。昨年11月以降連続して150%前後を維持しており、一人気を吐いている。1月は、最も小型の42型が185.8%と好調なうえ、主力の55型も161.8%、65型も181.0%と、まんべんなく売り上げを伸ばしている。人気の理由は、やはり価格だ。例えば、1月時点で最も売れているのは55型「4T-C55EQ1」で、平均単価(税抜き、以下同)は15万1000円。2番手はソニーの55型「XRJ-55A80L」で平均単価は23万7000円。シャープ4T-C55EQ1のほうが3割以上も安く、販売台数も1.8倍だ。3番手はTVS-REGZAの「55X8900L」(16万3000円)で、やはりシャープの方が安い。
シャープの有機ELテレビは、販売金額前年同月比が157.5%。TVS REGZAの81.8%、ソニーの56.3%をしり目に絶好調だ。かたや液晶テレビでは、トップシェアの座をTVS REGZAに奪われたシャープ。2022年度の決算で、6年ぶりに2608億円の大幅赤字を計上したことは記憶に新しい。今期は黒字化を必達とし100億円の黒字を見込んでいた。しかし2月6日の第3四半期決算発表会で、2023年度も一転100億円の赤字見込みに修正した。液晶パネル事業の不調が響いたという。1月のBCNランキング月次集計では、同社テレビ全体に占める有機ELテレビの販売構成比は、台数で16.4%、金額で32.4%だった。ここに来て構成比の拡大が目立つ。有機ELテレビの余勢を駆って、果たしてシャープはテレビ市場で起死回生なるか。注目したい。(BCN・道越一郎)