「写真や動画はスマートフォン(スマホ)で撮る」が、すっかり当たり前になった昨今、カメラの人気商品は様変わりした。旧態依然としたカメラではなく、何か一つ尖った特徴を持つ製品がトップシェアを飾るようになったからだ。全国2300店舗の家電量販店やオンラインショップの実売データベース、BCNランキングで、「今本当に売れているカメラ」が示す、カメラの今後を考える。
まずデジカメだ。この1月、デジカメ全体の販売台数ランキング1位は、富士フイルムの「instax mini Evo」だった。販売台数シェアは10.4%。2023年の年間を通じての販売台数もトップで、年間シェアは7.5%だった。instax mini Evo最大の特徴は「プリントできるデジカメ」という点だ。富士フイルムがもつインスタントカメラ「チェキ」の資産をデジカメに投入。同社独自のチェキフィルムに印刷することで、スマホには真似できないカメラを生み出した。チェキのエコシステムの一角をなす製品でもあるため、他社の参入が難しく、長らく優位を保っている。2021年12月の発売から28か月のうち、月間販売台数1位を8回獲得。23年は最も売れたデジカメにまで成長した。
次いで、レンズ交換型デジカメで売れに売れているのが、21年9月にソニーが発売した「VLOGCAM ZV-E10」だ。発売から29か月間で、月間トップシェア獲得回数は、なんと21回。22年7月以降19カ月連続でトップシェアに君臨し続けている。1月はもちろんトップシェアで13.8%。昨年の年間シェアも14.1%とダントツだった。特徴は動画だ。その名の通り動画で日常を記録するVlogをたしなむ人たちをターゲットに据えた。誰もが手軽に動画を撮れるよう手振れ補正機能などを充実。また音にもこだわった。3つのマイクを搭載してデジタル処理することで、クリアな音声収録を実現。カメラ上部に取り付けられる「モフモフ」も「カワイイ」と話題を呼んだ。マイクに入る風切り音を防ぎつつ、このカメラの象徴的存在にもなった。同社の交換レンズ規格、Eマウントレンズが使えるカメラとしては、10万円を切る安さで購入できるのも、人気の大きな理由だ。
そして、ビデオカメラだ。久々のヒット商品ともいえるのが、DJIの「Osmo Pocket 3」だ。昨年10月25日の発売以来、10月こそ販売台数ランキングは3位だったが、以降11月から1月まで3カ月連続でトップシェアを爆走中。1月は、なんと21.2%とぶっちぎりのシェアを獲得して1位だった。23年の年間シェアでも、10月末の発売で実質2カ月しか販売していない中で、4位に食い込むなど勢いのすさまじさを物語っている。Osmo Pocketシリーズ最大の特徴ともいえる、機械的手振れ補正のジンバルは健在。小型のカメラユニットを小型ジンバルで支える縦型のフォルムもユニークだ。センサーサイズを1インチに大型化したことで、画質が大幅に向上。これまで購入を躊躇していた層も巻き込んで一気に人気化した。
カメラはスマホにやられている。なぜならスマホは、撮るだけでなく、閲覧も、保存も、加工も、共有もと、写真や動画で行うほとんどの楽しみはすべて1台でまかなえてしまうからだ。仮に、大枚はたいて大きなセンサーを積んだレンズ交換型カメラと、明るく大きなレンズを購入して撮影したとしても、誰もが美しい写真を撮れるとは限らない。仮に、これぞという写真が撮れたとしても閲覧するのがスマホなら、SNSで共有することが目的なら、大きなカメラやレンズは、果たしてどれほどの意味があるのだろう。基本的にカメラは撮影専用機だ。撮影には長けているが、小さなディスプレイでしか閲覧できず、保存も加工も共有もままならない。全方位対応のスマホに対しカメラは、どう転んでも勝てそうにない。
しかし、今回紹介したトップシェアを走る3台のカメラは、スマホと戦えるポテンシャルを秘めている。共通するのは突き抜けた個性だ。instax mini Evoは、デジカメネイティブ層にも、プリントという古くて新しい価値を提供することで成功した。まさにコロンブスの卵のような製品だ。「Vlogger向けカメラ」という新たなカテゴリーを創出したソニーのVLOGCAMシリーズ。かなりの部分はスマホと競合しつつも、動画撮影の手軽さと仕上がりの良さで、スマホとは一線を画すことに成功した。DJIのOsmo Pocket 3は、くるくると首が動く存在のユニークさが最大のアドバンテージ。そこに高画質を加え、スマホにはない撮る楽しみを享受できる製品に仕上げた。
コロナ禍でやられにやられたカメラ市場は23年、ようやく前年割れから脱し、一見「カメラの緊急事態宣言」は解除されたかに思える。しかし、スマホの台頭によって、コロナ前から続いている大きな縮小トレンドは全く止まっていない。「スマホで写真、スマホで動画」の流れはもう誰にも止められない。その前提で、撮影に特化した専用機としてのカメラの位置づけを考え直す必要がある。カメラが生き残るには、これでもかと徹底的に突き抜けるしかない。今売れている3台のカメラは、その糸口を示している。(BCN・道越一郎)