ノートPCが苦戦している。コロナ禍では特需が生まれ活況に沸いたノートPCだが、23年3月からは、台数、金額とも継続的に前年割れ。今年の3月まで台数と金額のいずれも前年を上回ることはなかった。昨年の年末商戦の落ち込みが特に大きく、12月、1月ともに前年を2割以上下回った。この3月、販売台数前年比109.7%、金額108.9%と、2022年7月以降20カ月ぶりに台数、金額がそろって前年を上回った。しかし、4月には台数94.4%、金額95.0%と再び前年割れに逆戻り。全国2300店の家電量販店やネットショップなどの売り上げを集計するBCNランキングで明らかになった。この不調はいつまで続くのか。
コロナ初年の20年、ノートPC市場はテレワーク需要の拡大などを受け活況を呈した。しかし同年12月頃から急激な需要増に伴う部材不足なども相まって販売が減速。21年夏ごろには部材不足も徐々に解消しはじめた。しかし今度は急激な円安の進行で部材価格の上昇を招き、ノートPC市場は本格的な回復を見ないまま推移。結局、コロナ禍特需の反動減から抜け出せずにいる状態だ。ノートPC自体、低価格モデルでも普段使いには十分に高機能で高速になったといえるほど成熟化が進んだ。ある種の日常生活のインフラになってしまった。「あって当たり前。買い替えは壊れた時」となれば、市場の活性化は難しい。
メーカー関係者からは、来年10月に控えるWidows10のサポート終了に伴う買い替え需要の盛り上がりに期待する声は大きい。しかし、近年ではOSのサポート終了に伴って、極端に大きな買い替え特需は発生しにくくなっている。今回もあまり期待できないかもしれない。また、eスポーツなどの盛り上がりを受け、ゲーミングPC需要も徐々に高まっている。ゲーミングPCはグラフィックボードを搭載し、高機能なディスプレイも備えるなど単価も高く、注目のカテゴリーだ。しかし、ノートPC全体の数パーセントにすぎない少数派であることから、市場全体を活性化するパワーには欠ける。
一方、ここに来て一気に期待感が盛り上がっているのがAI PCだ。インテルが昨年12月に発売したCPU「Core Ultra」シリーズは、NPU(Neural Processing Unit)を備えるAIチップ。徐々にではあるがノートPCに搭載され始めている。実際には4月現在で、ノートPC全体に占めるCore Ultra搭載モデルの台数構成比は0.83%、金額構成比でも1.38%という状況だ。AI PCに対応するソフトもまだ少ない。メーカー関係者からは「正直言って、今の時点でAIチップを搭載してどんなメリットがあるのか、イマイチよく分からない」という声も聞く。しかし「AI PCはインターネットの登場に匹敵するインパクトがある。今年の夏以降、秋ごろからドライブをかけていく」と話すメーカー関係者も多い。今後、AI PCに市場を刷新するパワーがあるかどうかは未知数だ。しかし、AI PCのプロモーションが本格化する今年の夏以降には、ノートPCに勢いが戻る可能性が出てきた、とは言えそうだ。(BCN・道越一郎)