飯豊まりえ(ヘアメイク:星野加奈子、スタイリスト:髙山エリ)(C)エンタメOVO

 シェークスピアの四大悲劇の一つに数えられる『ハムレット』。三種類あるその原本のうち、戯曲の原型とも言われるQ1版を、松岡和子の新訳、森新太郎の演出で上演する。5月11日から公演中の東京・PARCO劇場を皮切りに、大阪、愛知、福岡で行われる公演で、吉田羊扮(ふん)する主人公ハムレットの恋人オフィーリアを演じるのは、「君と世界が終わる日に」、「岸辺露伴」シリーズなど、数々の人気ドラマで活躍する飯豊まりえ。シェークスピアの名作に挑む意気込みなどを聞いた。

-まずは、出演が決まったときのお気持ちを教えてください。

 舞台は自分の中で「立ち入ってはいけない場所」のような感覚があり、今までほとんど経験してこなかったんです。でも今回は、演出が森新太郎さんでハムレットを吉田羊さんが演じられるとお聞きして、「挑戦してみたい!」と好奇心をかき立てられました。それに、最初に知ったシェークスピア作品が『ハムレット』で、以前から「ご縁があればシェークスピアの舞台をやってみたい」と思っていたので、とてもうれしかったです。

-森さんのどんなところに興味を引かれたのでしょうか。

 以前から「舞台をやるなら、厳しい環境で演劇を勉強したい」と思っていたんです。森さんについては「“千本ノック”と言われるほどお稽古が厳しい」といううわさを聞いていたのですが、自分の忍耐力を鍛えることができ、役をより深められる作業になるはず、とポジティブに捉えていました。瞬発力が求められるテレビドラマと違って、稽古を重ねて本番に臨む舞台は作品に向き合う時間も長いですし、森さんの演出でシェークスピアに挑むなら、この作品を愛しながら演じることができるのでは、と思いました。

-実際にお稽古に入ってみた印象はいかがですか。

 お稽古に入る前、本読みが1週間くらいあり、せりふを一つずつ確認しながら読み込むことができたのは、とてもありがたかったです。

-いい舞台に巡り合えたわけですね。

 といっても、実際にお稽古することで初めてわかることも多くて。ただ、森さんは「違った」と思えば「ごめん」とすぐに切り替え、可能性を一緒に探ってくださるんです。皆さんが持ってきたものを受け入れてくださる懐の深さもあって。その分、稽古場の風通しもよく、毎日「ここはこうしてみようか」と、みんなで作品を作っている感覚があります。お芝居のヒントになることも多く、いろんなことを試せるので、日々刺激的で楽しいです。

-お芝居で映像作品との違いを感じる部分も?

 映像ならカメラが寄ってくれるので、口に出すことなく表情で伝えられるところも、舞台の場合、言葉にしないと伝わりません。特にこの作品は、シェークスピアということもあり、せりふが多いんです。その点、森さんが「こういう言い方をした方が、見ている人がイメージしやすい」と演出をつけてくださるので、なるべく心地よく、伝わりやすいように、と発声を心がけています。

-女性の吉田羊さんがハムレットを演じるのも、この作品の特徴です。

 羊さんは「女性ならではの繊細な部分も出るのでは」とおっしゃっていて、そういう部分を森さんと一緒に常に探られている印象です。

-稽古中の吉田さんの印象は?

 羊さんは、お稽古のとき、率先してご自身が考えてこられたお芝居を演じられるのですが、森さんから「こうしてほしい」とお話があると、すぐに切り替えて応じられていて。私も「まずは自分の考えてきたお芝居を試してみよう」と思うことができました。

-座長としての吉田さんはいかがでしょうか。

 羊さんは、常に一番早くお稽古場に来られて、終わってもしばらく書き物をされています。お稽古では、大きな声で「こうしよう」とお話しされるのではなく、みんなが萎縮することのないように、場を和ませてくださるんです。おかげで、緊迫した物語にもかかわらず、稽古中に笑いが起きたりして。それはやっぱり、羊さんが柔らかい雰囲気をお持ちでいらっしゃるからだと思います。

-Q1、Q2、F1と呼ばれる三種類のハムレットのうち、今回はQ1版の上演ですね。

 Q1は、現在もっとも上演されている4時間くらいあるF1版と比較するとぎゅっと凝縮したような内容です。刈り込むことで感情の流れがわかりやすくなり、「ここで間を取りたい」というところに時間を使える。それによって、お客様に考えてもらう余白が生まれるのが、Q1の魅力だと森さんからお聞きして、自分の中で自由度が上がりました。

-映画やテレビドラマなどの映像作品と異なり、観客の反応がその場で返って来るのも舞台の特徴です。

 最近は、ドラマや映画を倍速で見たり、途中で止めて後で続きを見たり…という方も多いと思いますが、舞台はその場の空気感や芝居の間まで含めて同じ時間を劇場にいる全員が共有するので、とても贅沢な時間だなと思います。私も普段、舞台を観劇するときは、そういう時間を楽しんでいます。お客様の表情や反応がどんなふうに見えるのか、楽しみにしています。

-最後に、公演を楽しみにしているお客様へのメッセージを。

 ハムレットの軸にあるのは復讐劇ですが、森さんは「赦し」というテーマを大事にしたいとおっしゃっていました。完全な悲劇でないところが、今回の『ハムレットQ1』の特徴です。その点に注目いただき、私たちの新たな『ハムレットQ1』をぜひ楽しんでください。

(取材・文・写真/井上健一)

『ハムレットQ1』は5月11日から6月2日まで東京・PARCO劇場のほか、大阪、愛知、福岡で公演