「かざし利用」で生活がどう変わるか

2023年6月に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(番号法)の改正法が国会で成立した。関連法として、電子証明書の取り扱いを定めた公的個人認証法も一部改正された。いくつかある改正項目の中で注目すべきは、マイナンバーカードの「かざし利用」のルールを定めた第38条4が新設された点だ。この改正法は今年の5月27日に施行されたが、これにより人々の生活がどのように変わるのだろうか。

マイナンバーカードの市民カード化構想

22年4月に開催された第7回デジタル田園都市国家構想実現会議で、当時の牧島デジタル大臣よりマイナンバーカードの「市民カード化構想」が示された。マイナンバーカード1枚でさまざまな市役所サービスが受けられる社会を、令和7年(2025年)頃までに目指すというものだ。

デジタル先進国の中にはカードを配っていない国もあるが、日本の場合はカードによってデジタルIDを普及させ、その利活用を通じて社会のデジタル化を図る方針がここに明確に示されたことになる。

「市民カード化構想」は、財政的にはデジタル田園都市国家構想交付金で支援し、「暗証番号なしでのマイナンバーカード利用も推進する」と資料には書かれている。

今年5月に施行された改正公的個人認証法は、この「暗証番号なしでのマイナンバーカード利用」を法的に下支えするものだ。

マイナンバーカードの「かざし利用」とは

マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書には署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書の二種類あり、オンラインでの本人確認に使われるデジタルIDとして、これまでいくつかのシーンで活用されてきた。

例えば署名用電子証明書は、国税の申告・納税・申請・届出などをインターネットでできるe-Taxで使われ、利用者証明用電子証明書はマイナポータルにログインする際などに使用されている。

このうち、利用者証明用電子証明書(電子証明書)は、なにもオンラインでのみ使われることを想定されたものではなく、対面の環境においても、個人を識別する手段として使われている。電子証明書を「かざし利用」する最も多い例は、全国の自治体で導入されている、マイナンバーカードを図書館カードとして使うケースだ。

具体的には、電子証明書のシリアル番号と図書館カード番号を紐付けておき、図書の貸出や返却の時に、マイナンバーカードをカードリーダーにかざして、電子証明書を読み取り、それに紐付けられた図書館カード番号を取得し、図書の貸出状況を管理する仕組みである。

17年の高市総務大臣の頃に、総務省主導で始まったマイキープラットフォームによる図書館カード利用も、カードリーダーにマイナンバーカードをかざして読み取っているのは利用者証明用電子証明書のシリアル番号であり、紐付け対象にマイキーIDが含まれるかどうかの違いはあっても、基本的な仕組みは上記と同じである。

「かざし利用」の課題

電子証明書を使った「かざし利用」については、今まで法で明確に定められたルールがなかったため、自治体によって運用の仕方がバラバラであった。

例えば、ある自治体では、マイナンバーカードと図書館カードの紐付けの時にだけ、本人にPIN(4桁の暗証番号)を入力させ、以降、図書の貸出、返却の際には、PIN入力なしでマイナンバーカードをかざすだけという自治体もあれば、最初の紐付け登録から、貸出、返却のすべてでPIN入力を必要とする自治体、最初から最後までPIN入力は一切不要にしている自治体など運用ルールはさまざまだった。

法改正で明確に 「かざし利用」の運用ルール

人によっては、利用ごとのPIN入力が利便性を大きく下げる要因ともなり、マイナンバーカード利活用の妨げにもなりかねない。なので、PIN入力の回数を最小限にし、カードをかざすだけで本人確認に使えるよう法的根拠を整えたのが、今回の公的個人認証法の改正である。

今回の法改正により、「市民カード化構想」の「暗証番号なしでのマイナンバーカード利用」、すなわちマイナンバーカードの「かざし利用」のシーンが今後増えてくることと思われる。

スマホでも「かざし利用」ができるのか

マイナンバーカードの「かざし利用」を増やすには、使用者側の利便性を高める必要がある。しかし、持ち物が増えてしまうことを不便だと感じる人もいるかもしれない。普段持ち歩いているスマホで「かざし利用」ができるようになれば利便性が向上し、活用の場が広がるのではないだろうか。

23年5月より、Androidのスマホには、マイナンバーカードと同じ電子証明書を搭載できるようになった。PIN入力以外でも、スマホに登録した生体情報で本人確認ができるのが特徴だ。

電子証明書が搭載されたスマホがあれば、それだけでマイナポータルにログインできるし、コンビニのキオスク端末で住民票などを取得できる。しかし、コンビニでキオスク端末に「かざし利用」する際には、かざした先の端末へのPIN入力が必須になる。

来春にはiPhoneへの電子証明書を含むマイナンバーカード機能の搭載が決まった。Apple社のサイトには、以下のように記載がある。

「利用者は、ウォレットを開いて自分のマイナンバーカードを選択し、iPhoneのサイドボタンをダブルクリックしてFace IDまたはTouch IDで認証し、非接触IDカードリーダーに自分のiPhoneをかざすだけで、対面で身分証明書を提示できます。利用場面によっては、カードリーダーでの読み取りの際に追加の認証ステップが必要になる場合があります。」

iPhoneに搭載された電子証明書の「かざし利用」の仕方として、Face IDやTouch IDなどで本人確認が済めば、あとは「かざす」だけで良くなるのか、それともAndroidスマホの現在の仕様と同じく、かざした後にPIN入力が必要になるのか、現在、デジタル庁とApple社が協働し、検討しているようだ。

おわりに

マイナンバーカードの「かざし利用」に関して、改正法の内容や図書館やスマホでの利用など、生活者目線での身近な変化について紹介してきた。今後、スマホの生体情報で本人確認をしてからスマホを「かざし利用」できるような、利用者の利便性が上がりつつ、セキュリティが担保された運用の実現を期待したい。(シーイーシー・加藤雄一)