価格転嫁に関する実態調査(2024年7月)




2024年上半期の物価高倒産は484件発生[1]した。過去最多のペースで増加しており、企業収益の改善には価格転嫁をいかにスムーズに進められるかが喫緊の課題となっている。2024年8月2日には、中小企業庁は、受注側の中小企業の立場で価格交渉のしやすさや価格転嫁の現状についての評価を発注側企業ごとに公開した[2]。評価の低い企業に対して大臣名で指導や助言を実施していくなど、政府全体で価格転嫁の促進を後押ししている。
一方で企業にとっては、原材料価格やエネルギー価格の高止まり、最低賃金の引き上げも控える人件費の負担増など、取り巻く環境は厳しい状況が続いている。コスト上昇分すべてを商品・サービスへ転嫁することが望ましいと分かっていても、国内消費の動向などを鑑みると慎重な姿勢を取らざるを得ない声も多い。
そこで、帝国データバンクは、現在の価格転嫁に関する企業の見解を調査した。本調査は、TDB景気動向調査2024年7月調査とともに行った。

<調査結果(要旨)>
- 自社の商品・サービスに対しコストの上昇分を『多少なりとも価格転嫁できている』企業の割合は78.4%、「全く価格転嫁できない」は10.9%だった
- 価格転嫁率は44.9%と前回調査(2024年2月)から4.3ポイント上昇しつつも、依然として5割以上を企業が負担
- 業種別の価格転嫁率は、「化学品卸売」(65.0%)や「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(63.0%)などで6割を超えた

※ 調査期間は2024年7月18日~31日、調査対象は全国2万7,191社で、有効回答企業数は1万1,282社(回答率41.5%)
※ 調査機関:株式会社帝国データバンク
※ 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
帝国データバンク「全国企業倒産集計2024年上半期報」(2024年7月5日発表)


[1] 帝国データバンク「全国企業倒産集計2024年上半期報」(2024年7月5日発表)
[2] 中小企業庁「価格交渉促進月間(2024年3月)フォローアップ調査の結果について(2)」(2024年8月2日発表)


コスト100円上昇に対する売価への反映は44.9円、前回調査を4.3円上回り、過去最高
自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、コストの上昇分に対して『多少なりとも価格転嫁できている』企業は78.4%と8割近くにのぼった。内訳をみると、「2割未満」が19.6%、「2割以上5割未満」が18.6%、「5割以上8割未満」が20.2%で2割を超え、「8割以上」が15.5%、「10割すべて転嫁できている」企業は4.6%だった。







他方、「全く価格転嫁できない」企業は10.9%と前回調査(2024年2月)から1.8ポイント減少した。「厳しい競争環境があり、コストを転嫁すれば顧客を失ってしまう」(機械・器具卸売、愛媛県)などの意見も聞かれ、依然として全く価格転嫁ができていない企業が1割を超えている。

また、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率[1]」は44.9%となった。これはコストが100円上昇した場合に44.9円しか販売価格に反映できず、残りの5割以上を企業が負担していることを示している。



企業からは、「価格高騰がユーザー目線でも一般化してきたため、価格転嫁が進んでいる」(建設、熊本県)や「原材料価格の高騰に対して、販売先と認識を共有できている場合は、価格転嫁をしやすい」(機械・器具卸売、東京都)といった声が聞かれ、値上げに対する社会全体の受け入れや取引先の理解などにより、2024年2月の前回調査(40.6円)から4.3円分転嫁が進展した。

[1] 価格転嫁率は、各選択肢の中間値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除したもの(ただし、「コスト上昇したが、価格転嫁するつもりはない」「コストは上昇していない」「分からない」は除く)

サプライチェーン別の価格転嫁の状況、卸売業を中心に幅広く進展
価格転嫁率が高い主な業種では、「化学品卸売」(65.0%)や「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(63.0%)などで6割を超えた。他方、一般病院や老人福祉事業といった「医療・福祉・保健衛生」(19.8%)が2割を下回ったほか、「娯楽サービス」(21.7%)、「金融」(25.8%)、「農・林・水産」(27.3%)などで価格転嫁率は低水準となった。



また、サプライチェーン別に価格転嫁の動向をみると、前回調査と比較して、改善幅は小さいものの全般的にやや価格転嫁は進展している。とりわけ、サプライチェーン全体に関わる『運輸・倉庫』(34.9%)は3割台に到達。企業からも「物流の2024年問題の後押しもあり、取引先との交渉がスムーズにいくことが多い」(運輸・倉庫、愛知県)といった声が聞かれ、2024年問題への対応が追い風になっている様子がうかがえた。

他方、川下に位置する「飲食店」(36.0%)や「飲食料品小売」(40.9%)では前回調査から転嫁率は後退し、「ある程度の値上げは消費者も理解してくれるが、あまりにも価格が上がると来店率が下がると思いなかなか値上げに踏み切れない」(飲食店、愛媛県)など、客離れを危惧して転嫁が難しいといった声が寄せられた。業種間で価格転嫁に格差が広がりつつある。


進み出した価格転嫁が頭打ちになる可能性も
本調査の結果、自社の商品・サービスのコスト上昇に対して、8割近い企業で多少なりとも価格転嫁ができており、価格転嫁率は44.9%と前回から4.3ポイント上昇した。取引先への丁寧な説明などを通じてしっかりと転嫁ができている企業が増えたものの、依然として企業負担の割合は5割を超えている。価格転嫁に対する理解は浸透し、実際に転嫁が少しずつ進んでいるものの、原材料価格の高止まりや人件費の高騰などに加え、同業他社の動向、消費者の節約志向も相まって、「これ以上の価格転嫁は厳しい」といった声も多数寄せられている。進み出した価格転嫁が頭打ちになる可能性もある。

政府の価格転嫁に対する支援は一定の成果があがっているようだが、現状を打破するためには、原材料の安定供給に向けた政策や賃上げの支援を継続しつつ、購買意欲を刺激する大規模な減税など収入の増加につながる多角的な経済施策が必須となるだろう。

<参考>企業からのコメント
- 鮮魚卸売市場でのセリによって魚価が決まるので、漁業者側が価格設定(値上げ)することはできない (農・林・水産、山口県)
- 借入金利の上昇はまだ限定的であるものの、借入金利の上昇が顕著となれば、貸出金利の引き上げを行う態勢はできている (金融、大阪府)
- 土木工事は、主に競争入札なので価格転嫁は困難である。労務費および原材料費上昇のため、増額変更の契約はあるものの一部しか転嫁できない(建設、山形県)
- 不動産業は、お客様からいただく手数料が法律によって決まっている。そのため、規定されている手数料率を上げてほしい(不動産、秋田県)
- ある程度の価格転嫁ができている理由としては、大企業に対し政府の指導が入っていることが大きい(電気機械製造、福島県)
- メーカー側の価格転嫁の受け入れに対する意識の低さや、経費高騰分に対する価格転嫁要請への出し渋りがある(輸送用機械・器具製造、茨城県)
- 基本的に購入する商品が値上がりすれば、値を上げてお客さまに販売できている。ただし、昨今は競争激化のため値上がり分をそのまま売値に転嫁することが難しくなってきている(建材・家具、窯業・土石製品卸売、京都府)
- 仕入れ価格の上昇分は顧客に説明し上げているが、工事代などの人件費については上げていない(家電・情報機器小売、山梨県)
- 値上げ交渉はしてきたが、想定以上の経費増によりすべて転嫁ができていない。再交渉には時間がかかる(運輸・倉庫、宮城県)
- 何度も原材料が上がるため、その度にあげることはできない。メニュー表の作り直しや、レジ設定の変更が必要になるため容易ではない(飲食店、神奈川県)

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