ウマの起源から、家畜ウマ、古代ウマ、アラブウマ、中世の軍馬、農耕馬、荷馬、競馬のサラブレッド、そして未来のウマまで。遺伝学、生物学的な科学的視点と文明史的視点でたどるウマと人間の歴史。
株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、科学歴史書『ウマの科学と世界の歴史』(リュドヴィク・オルランド著、吉田春美訳)を、2024年9月11日に発売します。
■歴史上はじめてのグローバル化に貢献したウマ
人間の歴史は、「ウマ以前の時代」と「ウマ以後の時代」に分けられると言っても過言ではありません。人間は馬を保有したことによって、人間の歴史の構造を根底から変えるダイナミックな変化をもたらしました。ウマから速い移動速度を得た人間は、世界を探検し、遠方との取引が可能になりました。そして同時に、言葉や文化、病原菌でさえも、かつてないスピードで広まりました。
人間がウマを家畜化できるまでには多くの時間がかかりましたが、家畜化後はほんの数世紀のうちに、世界の各地にまで伝播しました。現代は内燃機関等に取って代わられて、ほとんどウマが登場する機会は減りましたが、「ウマ以後の時代」は20世紀初頭まで続き、人間にとって長らくウマは日常世界になくてはならない存在であり、世界はウマを中心に回っていました。
4000年以上もの間、人間が手懐け征服したウマは、人間にとって最も必要であり、かつ高貴な存在でした。家畜ウマ、荷馬、農耕馬、軍馬、競走馬……。人間の求めによって、ウマの活躍の仕方が変わって行きます。本書は、魅力に溢れるウマの歴史をたどっていくことで、私たちの社会がどのようなものだったのか、私たちの文化や歴史をも解き明かしていく一冊です。
■DNAが解明した世界的な発見!
本書がたどっていく歴史は、もちろん歴史学と考古学をツールとして用いていますが、遺伝学も重要なツールとなっています。
2013年、コペンハーゲン大学に在籍していた著者のリュドヴィク・オルランドは、カナダの永久凍土に保存されていた動物の遺骸からDNAを抽出・解読することに成功し、それが70万年前に生きていたウマであることを突き止めました。それはDNA分析の限界を50万年以上さかのぼる快挙でした。
以降著者は、ウマがどこから来て、どのように地球上に広まったのか、ウマの家畜化の起源という未解明の謎に取り組んでいきます。世界各地のウマのゲノムを解析することで遺伝的歴史をたどろうというものでした。
その研究の成果として、従来の地図を大きく書きかえる、ウマの遺伝的近縁性を示す地図を2021年に完成。同時に、家畜ウマの発祥地も特定するに至りました。さらに、この家畜ウマの起源とされた系統がごく短期間に世界を席巻し、各地の在来馬を駆逐したことがわかりました。
本書では遺伝学を用いながら、もともとの起源となったウマのみならず、さまざまな家畜ウマやその遺伝子の変遷を追うことで、ウマの全てに迫って行きます。
■目次より
第1章 プロローグ
昔のウマ/文明史におけるウマ/こんにちのウマ
第2章 起源のウマ
ファーラップ──戦間期のスター/不審な死/失敗がヒントに/最初の家畜ウマの痕跡をたどって/ボタイは家畜ウマの発祥地か/だがしかし……/馬乳に含まれる元素の痕跡/ボタイのウマのDNA/最新ニュース──ボタイとは別の場所で二度目の家畜化が起きた
第3章 ウマのもうひとつの起源
ロシア西部とウクライナのステップのターパン/新しい関係のルーツ/干し草のなかから針を探す──中部ヨーロッパ仮説/イベリア半島──可能性はあるが議論の余地のある発祥地/アナトリア起源説/答えはトンネルの先に/起源の地理/ドン・ヴォルガ下流域、家畜ウマの真の発祥地/繁殖コントロールとしての家畜化/従順さと丈夫な背中、絶妙な組み合わせ
第4章 黙示録のウマ
インド・ヨーロッパ語族/騎馬戦士のルーツ/ステップから来た黙示録の騎手たち/遺伝子をたどり、それを持つ人々と彼らが話す言語を見つける/約5000年前、人間の移動がヨーロッパの遺伝子地図を描き替えた/ウマ、クルガン仮説の弱点/インド・イラン語派の拡散──戦車とウマの歴史/家畜化は気候変動に対応するためか?
第5章 ウマ以前のウマ
先史時代の中心へ/先史美術における動物とウマの位置づけ/アパルーサの毛色/先史美術でもそうだったのか?/狩猟術/ショーヴェ洞窟に描かれたウマはプルジェワリスキーではない/先史時代のウマの意外な多様性/先史時代のウマの拡散/野生回帰
第6章 もうひとつのウマ
1976年のグレート・アメリカン・ホースレース/ラバ、自然の真の力/頑強だが繁殖力のない雑種/古代のラバ生産/フランスにおけるラバの黄金時代/王の動物
第7章 オリエントのウマ
アラブウマ──伝説のウマ/アラブウマの起源と世界への拡散/アラブの種馬の比類ない成功/優美さ、気品、持久力の追求/持久力の生物学/遺伝子のメダルの裏側/楽観的だが透徹した見方/荷重としての遺伝とその歴史
第8章 中世のウマ
ウマ、教会、テキストとイメージ/中世のウマの毛色のDNA/ヴァイキングのウマはどのようなものだったか?/ヴァイキングからチンギス・ハンへ/中世の軍馬の姿/ウマの遺伝子から大きさまで/都市のウマ、農村のウマ
第9章 極限の地のウマ
極東と伝説の茶の道/チベットウマの起源と独自性/EPAS-1遺伝子と高地生活への適応におけるその役割/シベリアの極寒のウマ/バタガイのウマ/ヤクートウマの本当の起源
第10章 アメリカのウマ
先住民の見方/アメリカ大陸──ウマ科動物の発祥地/大陸間の交流/アメリカへのウマの帰還──植民地時代のヨーロッパ中心主義の残滓か?/定説の絶滅年代より新しい堆積物のDNAの痕跡/共同プロジェクトの舞台裏/遺伝子の側面を越えたプロジェクト/アメリカのウマ──その真の歴史/スンカワクハンの民
第11章 サラブレッド
競馬場から姿を消したウマたち/静かな大量屠殺/こんにちの薬物利用/昔の薬物利用/限界に達した脆弱な馬体/厳しく監視される繁殖/くじ引きのような一生/期待が持てるわけ/細胞治療へ/遺伝子ドーピングで武装したレース/パフォーマンスの追求/ミオスタチンと短距離レースの遺伝学/急速に高まる近親交配のリスク/古代ギリシアからこんにちまで
第12章 未来のウマ
ポロ――動物クローンで最先端のスポーツ/クローンのつくり方/クローンのパフォーマンスと健康/遺伝子カジノ/スポーツ産業以外の再生事業/クローン作製から時間の旅へ/未来への回帰/クローン元と同じではない編集されたコピー/不確実な未来
第13章 エピローグ
ウマと私/魅力的な研究対象/心の底から身近に感じられる動物の発見/つなぐものとしてのウマ
■著者紹介
リュドヴィク・オルランド(Ludovic Orlando)
古代ゲノムを手がかりに生物の系統を研究している古遺伝学者。フランス国立科学研究センター(CNRS)で研究部長を務めており、現在、南フランスのトゥールーズ第三ポール・サヴァティエ大学で人類生物学・ゲノム研究センターを主宰している。2013年、当時デンマークのコペンハーゲン大学に在籍しながら、カナダの永久凍土に保存されていた動物の遺骸からDNAを抽出・解読することに成功し、それが70万年前に生きていたウマであることを突き止めた。DNA分析の限界を50万年以上さかのぼる快挙であったため、著者の名は世界的に知られるようになった。2021年、従来の学説を大きく描き替えるウマの遺伝的近縁性を示す地図を完成させた。
■訳者紹介
吉田春美(よしだ・はるみ)
上智大学文学部史学科卒業。 訳書にC・アングラオ『ナチスの知識人部 隊』、F・マルテル『ソドム──バチカン教皇庁最大の秘密』、F・コラール『毒殺の世界史』(上・下)、M・トゥーサン=サマ『お菓子の歴史』、M=C・フレデリック『発酵食の歴史』、M=J・シャスイユ『幻のワイン100──世界最高級ワインと酒蔵』ほか多数。
■書誌情報
書名:ウマの科学と世界の歴史
著者:リュドヴィク・オルランド
訳者:吉田春美
仕様:46変型判/並製/264ページ
発売日:2024年9月11日
税込定価:2,970円(本体2,700円)
ISBN:978-4-309-22932-4
装丁:岩瀬聡
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309229324/
出版社:河出書房新社
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