半世紀の苦情とJAROのトピックス

公益社団法人日本広告審査機構(JARO)は10月1日、設立50周年を記念して、寄せられた苦情を取りまとめた「苦情の50年史」を公開しました。
1974年度に54件からスタートした受付件数は、2017年度に1万件を超え、直近の2023年度は10,874件でした。50年間累計では約26万件に上ります。初年度に多くを占めたのは、業種は不動産、媒体は新聞の広告でした。各年度の媒体1位は設立からしばらく新聞が続きますが、1990年度にテレビが新聞を超え、1993年度から折込も急増、2003年度以降はテレビの1位が続き、右肩上がりだったインターネットが2019年度に1位になります。業種においても、当初は不動産、食料品(健康食品含む)、旅行、人事募集など「ウソ・大げさ・まぎらわしい」広告が多かったのですが、不快・子どもに見せたくないなどの広告表現に関するものも増え、現在では年度によりますが両者の差は大きくありません。

50年間の苦情を紐解くと、経済・社会情勢、暮らし、流行など、時代を反映して苦情の商品・サービスが大きく変化していることが分かります。その一方で、人々がどのような広告に問題意識や不快感をもつのかについては、昔も今も変わらないと感じていただけると思います。

「苦情の50年史」では広告・表示に対する消費者の声と各年度のトピックスを、JAROならではの資料をもとにご紹介しています。ぜひご覧ください。

https://50th.jaro.or.jp/history/


「苦情の50年史」トップページ
1.50年間の件数推移
2.苦情の10年サマリー
3.各年のデータ
 ▼業種別件数
 ▼媒体別件数
 ▼広告・表示に関する意見の傾向
 ▼寄せられたご意見(一部)
 ▼REPORT JAROの記事より
 ▼世相と広告



1.50年間の件数推移


50年間の件数推移(苦情・問い合わせ等の総件数)

1974年度は8月末から事務局業務を開始し、秋口には苦情が寄せられ始めた。初年度は半年ほどの期間で受付件数は54件(以下、受付件数は苦情・問い合わせ等の合計を表す)、消費者を誤解させるような「うそ・大げさ・まぎらわしい」広告の苦情が多くを占めた。その後、受付件数が徐々に増加し、1990年代にはテレビや折込の苦情が急増した。2000年代にはブロードバンド、スマートフォンが普及し、その後の広告・表示の状況を変えていく大きなきっかけとなった。2010年前後はリーマンショックや東日本大震災があり、一部の苦情が増加したものの、全体的には減少となった。直近の10年間では違法なインターネット上の広告・表示が急増し、そこへ新型コロナ期のメディア接触の増加もあり、2020年度には15,100件の最多件数を記録した。

なお、試験運用していたウェブフォームからのオンライン受付を2014年度から正式に計上したため、その後の受付件数が大きく伸びた。(試験運用期間は2006年9月から2014年3月までで、その間の受付件数は計14,371件)
2.苦情の10年サマリー
■1974~1983年度 体制確立期

『REPORT JARO』1975年4月号
第1次・第2次オイルショック、激しい物価高騰、環境問題などが起こり、消費者運動も活発化した時期である。法令が新設・改正され、業界の自主基準作りや企業の消費者窓口の設置が進んだ。
この期間のJAROの受付状況は、条件等の不表示や誇大な表示など消費者を誤認させる不動産、人事募集、健康食品、通信販売などの苦情が多く、中には「広告の取り方」(自営業者などに広告掲載を勧誘するが掲載されないなど詐欺や威迫の事例)、内職商法など詐欺的なものも目立った。媒体別では新聞が多数を占め、1.新聞、2.テレビ、3.雑誌の順が何年も続く。
JARO業務委員会では金融商品、レコード、百科事典、パッケージツアーなどさまざまな広告を審議した。審議結果の「見解」を基に、関係団体が自らの自主基準を変更したり、傘下会員企業に周知するなど企業・団体・JAROの広告適正化への連携がスタート当初から多く生まれた。



■1984~1993年度 苦情伸長期

『REPORTJARO』1984年9月号
昭和から平成へと元号が変わり、初めて消費税が導入された時期である。この期間の受付状況は1984年度1,390件から1993年度3,725件へ10年間で3倍近くに伸びた。業種では人事募集、内職、会員募集などが多く、求人や内職の募集に見せかけ、弱みにつけこんで金銭をだまし取ろうという詐欺的な手口が横行した。この期間も引き続き「広告の取り方」商法にも苦情が寄せられた。「身長を伸ばす」といった商品の通信販売や健康食品を含む食料品の広告に対する苦情も多かった。
媒体別では、1990年度に設立以来1位だった新聞をテレビが上回り、1993年以降は折込とテレビが拮抗する状況が続いた。折込については不適切な表示が課題となっていたことから、1990年度に消費者モニター制度を開始した。



■1994~2003年度 苦情伸長期2.

『REPORT JARO』2003年4月号
この時期はインターネット黎明期(1990年代~2000年代初頭)に当たり、Windows 95の登場やモバイルの3G、ADSLのサービス開始によりインターネットが普及し、電子商取引(EC)が本格化していった。JAROも2001年度に分類コードを改定し、媒体別「インターネット」を新設した(それまでは「その他」に計上。2001年度のインターネットは238件)。
 この期間は「金融・保険」の苦情が多かった。特に消費者金融は1997年度から2003年度を中心に寄せられ2001年度に急増、ヤミ金融も相当数含まれていた。人事募集や内職は継続して寄せられ、架空請求も急増した時期である。媒体別では、テレビと折込が多い時期であり、テレビではCM表現に対して、折込では不適切な健康食品や人事募集などに苦情が寄せられた。
 大型の利殖商法が多発していたため警察庁・生活経済対策室から消費者への注意喚起について協力要請があった。利殖商法は求人広告の体裁で消費者を引き込むケースが多く、JAROにも苦情が寄せられていたことから啓発広告を制作した。



■2004~2013年度 苦情安定期

『REPORT JARO』2011年11月号
2011年3月の東日本大震災により多くの企業がCMを自粛し、団体のCMが繰り返し放送される事態となった。「CMがしつこい」との声が多数寄せられるとともに、根拠なく放射性物質への効果をうたった商品の苦情も見られた。また、この時期は通信サービスに関連するものも目立った。携帯電話の複雑な料金プラン、インターネット回線やIP電話の「工事費無料」などである。
 消費者行政にも大きな変化があり、2004年に消費者保護基本法が消費者基本法に改正され、2009年に消費者庁、消費者委員会が設置された。2013年に起きたメニュー偽装問題は、景品表示法における「事業者が講ずべき管理上の措置」の義務付け、課徴金制度の導入につながった。2013年には健康食品表示の指針となる「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」も公表されている。
 なお、この時期は前述のとおりオンライン受付を試験運用した。



■2014~2023年度 ネット苦情急増期
 電通「日本の広告費」によれば、インターネット広告費はこの時期に2桁成長が続き、2019年にテレビ広告費を超えている。JAROの受付件数も同様に2019年度にインターネットがテレビを上回り、特に同年度は前年度比42%増、翌2020年度は36%増と急増した。しかし、2021年度には一転減少し、その後はインターネットとテレビの苦情件数は同水準となっている。
 業種別では、デジタルコンテンツ(ゲームやマンガアプリなど)の性的表現や恐怖表現に継続して苦情が寄せられた。また、美容・健康商材を中心に詐欺的な定期購入契約が急増した。ECサイトに誘導する広告等にはアフィリエイターが関わることが多く、JAROでも消費者に注意喚起を行うともに、事業者向けセミナーなどでこの問題を何度も取り上げた。
 新型コロナウイルス感染拡大も大きな変化をもたらした。メディア接触時間の増加、ネット上の不適切な広告・表示の増加により、2020年度にはインターネット上の化粧品、健康食品、オンラインゲーム、配信サービスなどを中心に苦情が急増し、受付件数は15,100件と最多を記録した。
 2020年度には悪質な事例の増加によりJARO審査結果分類基準を改定し、最も重い「警告」よりさらに強く適正化を求める「厳重警告」を新設した。運用初年度の2020年度は「見解」27件中、厳重警告は15件で、その14件にアフィリエイトプログラムが関わっていた。広告主だけでなくアフィリエイターに対しても「見解」を発信した。

苦情の50年史 はこちら

≪ 参 考 ≫
JARO 50thプロジェクト
50周年となる2024年度は記念サイトを公開し、5つのコンテンツを紹介しています。4月に記念マーク&ステートメント、SNS用動画「広告苦情、動画にしてみた」、6月に記念広告、8月に記念シンポジウム案内を掲載し、10月1日に「苦情の50年史」を公開しました。

10月10日には記念シンポジウム「AI時代、広告と消費者のこれから」(東京千代田区・イイノホール&YouTubeライブ配信)を開催します。
JAROについて
JARO(ジャロ)は1974年に設立された民間の広告自主規制機関です。「悪い広告をなくし、正しいよい広告を育てたい」という広告界の念願で、広告主、新聞社、出版社、放送会社、広告会社、広告制作会社など広告に関係する企業が自ら集い、JAROを設立しました。年間1万件弱の苦情を受け付け審査する審査活動だけでなく、広告規制情報を扱うセミナーや相談対応などの事業者支援、行政・団体などとの連携・協力など、啓発活動や協働も行っています。

≪50年の記録≫
▼総受付件数・・・苦情・照会などの総受付件数は50年間で約26万件。1974年度の54件に始まり、直近の2023年度は10,874件で、50年間の合計は259,587件。
▼会員社数・・・1974年10月31日時点で257社、2024年3月31日時点で887社
▼委員会等・・・JAROを運営または広告を審査する理事会・部会・委員会は1974年10月から2024年3月まで3,067回開催。
▼機関誌・・・月刊の会員向け機関誌『REPORT JARO』は通算590冊。1975年2月の第1号以来毎月発行し、2024年3月号で590号。これとは別に、海外の広告規制や広告表現を不定期で発行した別冊レポートは29号分。

≪組織概要≫
公益社団法人日本広告審査機構
(英文名 Japan Advertising Review Organization, JARO)
≪事務局≫  東京都中央区銀座2-16-7銀座2丁目松竹ビルANNEX
≪関西事務所≫大阪府大阪市北区梅田 2-5-8 千代田ビル西別館
理事長 西澤 豊(時事通信社顧問)
会員社数 2024年9月現在 880社(広告主367社、新聞77社、放送178社、出版40社、インターネット(媒体)24社、広告会社165社、広告関連29社)
設立 社団法人許可1974年10月15日、公益社団法人認定2011年4月1日
                                         以上
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