新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2024年8月)




新型コロナウイルスの感染拡大により業績が悪化した中小企業を支援するため、2020年に始まった政府系金融機関と民間金融機関によるコロナ関連融資制度。実質無利子・無担保で行われた「ゼロゼロ融資」は2024年4月に最後の返済開始のピークを迎えたが、4~9月の間に制度を利用しながらも倒産に至ったケースが360件発生するなど支援効果が薄らいできている。市場金利の上昇など企業を取り巻く事業環境は大きく変化しているなかで、政府は事業再生や経営改善に政策を転換している。



そこで、帝国データバンクは、新型コロナ関連融資に関する現在の状況や返済見通しなどについて調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2024年8月調査とともに行った。

<調査結果(要旨)>
- 新型コロナ関連融資の返済、「5割以上」は3社に1社まで増加、「未返済」は6.6%に
- 借入企業の12.6%が今後「返済に不安」、特に「家電・情報機器小売」が急増
- 新型コロナ関連融資の返済における懸念材料、「人件費の高騰」が42.6%でトップ

※ 調査期間は2024年8月19日~8月31日、調査対象は全国2万7,247社で、有効回答企業数は1万1,414社(回答率41.9%)。なお、新型コロナ関連融資に関する調査は、2022年2月、8月、2023年2月、8月、2024年2月に続いて6回目
※ 本調査における詳細データは、帝国データバンクホームページ(https://www.tdb.co.jp)のレポートカテゴリにある協力先専用コンテンツに掲載している
※調査機関:株式会社帝国データバンク
新型コロナ関連融資、「未返済」は6.6%、「5割以上返済」も3社に1社まで増加
新型コロナ関連融資[1]について、「借りていない」企業は44.9%だった一方、「現在借りている」企業は38.1%となった。「すでに全額返済」した企業は14.3%だった。
新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業のうち、2024年8月時点で返済が『3割未満』の企業は36.7%、「未返済や今後返済開始」の企業は6.6%だった。一方で、融資の『5割以上』を返済していたのは34.3%となった。



2024年2月時点と比較すると、『5割以上』返済している企業は4.8ポイント、『3割~5割未満』は3.5ポイント増加していた。一方で、「未返済や今後返済開始」は3.9ポイント減少しており、新型コロナ関連融資の返済は着実に進んでいることがわかった。

企業からは、
- 「コロナ関連融資の返済期間はもっと伸ばすべきだが、企業はそれに甘えることなく返済計画を立てる必要がある」(一般土木建築工事)
- 「コロナ関連融資により、小規模協力会社の財務体力が落ちており、そちらへのフォローが必要」(一般貨物自動車運送)
- 「コロナ融資は金利が発生する前に全額繰り上げ返済し、他の融資を含め、借入金は完全にゼロ(無借金経営)になった」(工業用プラスチック製品製造)
- 「コロナで減った収入を借り入れで補い事業を存続させることはできたが、コロナが終わっても利益が増える訳ではなく、返済で事業の収支が悪くなる。もっと資本金的な返済猶予を持った制度が必要だったのではないかと思う」(電子応用装置製造)

といった意見が聞かれた。




[1] 「コロナ関連融資」は、新型コロナ感染症の拡大に対応して実施された政府系金融機関と民間金融機関による金利や返済条件が優遇された融資。代表的な例として、日本政策金融公庫の「新型コロナ特別貸付」「新型コロナ対応資本性劣後ローン」など、日本政策投資銀行と商工中金の新型コロナ関連「危機対応融資」、民間融資のうち信用保証協会の「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」を通じた保証付き融資、などがある

借入企業の12.6%が今後「返済に不安」、「家電・情報機器小売」が急増
新型コロナ関連融資を「現在借ている」企業に対して今後の返済見通しを尋ねたところ、85.5%は「融資条件通り、全額返済できる」と考えていた。

他方、『返済に不安』を抱いている企業は12.6%と1割を超えている。その内訳をみると、「返済が遅れる恐れがある」(4.9%)や「金利減免や返済額の減額・猶予など条件緩和を受けないと返済は難しい」(5.7%)、「返済のめどが立たないが、事業は継続できる」(1.3%)、「返済のめどが立たず、事業を継続できなくなる恐れがある」(0.7%)となっている。返済に不安を感じている企業は、2022年8月時点以降、1割台前半での推移が続いている。





業種別にみると、新型コロナ関連融資の返済に不安感を抱く企業の割合が最も高い業種は、「家電・情報機器小売」(41.2%)で、2023年8月時点(15.0%)、2024年2月時点(13.6%)と1割台で推移していたが、情報機器などの売り上げの伸び悩みが影響したことで唯一4割を超えるまでに急増した。さらに、アパレル販売などを含む「繊維・繊維製品・服飾品小売」(2023年8月時点27.6%→2024年2月時点23.1%→2024年8月時点33.9%)が、3割台へと10.8ポイント増加している。また、「娯楽サービス」(2023年8月時点20.0%→2024年2月時点22.8%→2024年8月時点25.4%)も徐々に増加し、4社に1社の水準となっている。



一方で、新型コロナによる影響を大きく受けた「飲食店」(2023年8月時点32.4%→2024年2月時点25.0%→2024年8月時点14.7%)は、前回より10.3ポイント低下した。また、「旅館・ホテル」は3.6%となり、2023年8月時点(25.0%)、2024年2月時点(22.2%)と低下傾向が続いている。


企業からは、
- 「ユーザー様の景気回復が今後も見通しが悪ければ、同条件での返済には不安を感じる」(家庭用電気機械器具小売)
- 「返済の開始時期を大幅に遅らせることができればありがたい。短コロ(短期継続融資)のように金利返済状態を維持したい」(情報家電機器小売)
- 「借り換え需要には積極的に対応願いたい」(かばん・袋物小売)
- 「年間売り上げの1.5倍以上の借入で、良く借りられたと思う。ただし、返済が始まり、預金高が毎月減ってきている。このままで返済を続けていると、いつ資金が枯渇するか心配である。どこかで返済期限の延長ができないと、事業の継続が難しくなるかもしれない」(映画・ビデオ制作)
- 「返済が楽になる借り換え(リスケではない)を用意しないと、体力が持たない企業が増えるのではないか」(自動車(新車)小売)
- 「今後返済が始まるが、返済が苦しくなった場合に期間を延ばせるとか、借り換えができるとか、安心材料がほしい」(食料・飲料卸売)
- 「コロナ感染症の期間を生き残るためにはコロナ融資は必須だったので後悔はしていないが、現状、コロナ以前の業況には戻っていないため返済は苦しい」(成人女子・少女服製造)
- 「当初コロナ融資や支援等、ばら撒きに近い対策を取った結果が、不正や自己破産による返済を免れたりするケースが横行している。地道に企業の存続や返済を頑張っているところが大変であることを配慮して欲しい」(化粧品小売)
- 「コロナの3年間は非常に厳しく、その後も売り上げは24%減少した。返済ができない」(下着類卸売)
- 「返済は約定通り可能だが、返済見合いの融資を実行していただけないと運転資金が不足する」(酒場、ビヤホール)

などの意見が聞かれた。

新型コロナ関連融資の返済における懸念材料、「人件費の高騰」が42.6%でトップ
新型コロナ関連融資を「現在借りている」企業に対して、同融資の返済における懸念材料について尋ねたところ、「人件費の高騰」が42.6%でトップとなった(3つまでの複数回答、以下同)。
次いで、「原材料価格の高騰」(39.4%)が4割近くに達したほか、「人手不足」(27.0%)、「金利の上昇」(25.1%)、「国内消費の低迷」(23.9%)が2割台で続いた。



企業からは、
- 「人件費の上昇にともなう税金や社会保険料の上昇が負担」(印刷)
- 「ゴルフブームも減少傾向がみられている。コロナだからゴルフは良いという傾向が減少すると、またゴルファー人口の低下につながっていくことが考えられる」(ゴルフ場)
- 「当地域の温泉自体の集客力が落ちている懸念がある」(旅館)
- 「一括返済をしたいが、銀行との付き合い上、分割返済となっている」(職業訓練施設)
- 「銀行からの依頼で借りた。現時点で返済に懸念はない」(精密機械器具卸売)

などの声があがった。




新型コロナ関連融資で倒産が減少したことは、大きな効果として捉えられよう。しかし、今後は、3年間の無利子期間が終了し、返済が本格化することになる。日本経済がポストコロナ時代へと進み始めているなかで、新型コロナ関連融資の返済は着実に進展している。一方で、現在借り入れのある企業のうち12.6%が今後の返済に「不安」を感じており、2022年8月以降、1割台前半での推移が続いている。特に情報機器の販売が伸び悩む「家電・情報機器小売」が急増した。多くの企業で人件費の高騰を今後の返済における懸念材料と捉えている様子もうかがえる。

現在、ゼロゼロ融資など政府による支援策が終わりを迎えつつあるなかで、再び倒産件数は増加している。日本銀行による政策金利の引き上げが今後も続くと、新規の借り入れによる金利負担が増し、コロナ関連融資の返済に影響が出る可能性もあろう。企業が円滑に借入金の返済を行うためにも、DX化などを通じてより利益を生み出せる企業への変革が求められる。

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