(ポイント)
・ゲノム編集技術CRISPR-Cas9を応用して、遺伝子を完全には壊さず部分的に抑える方法を発案し、実証実験を行いました。
・モデル植物シロイヌナズナで、機能が失われると致死的な影響をもたらす遺伝子HPY2の部分的機能抑制型突然変異体の作出に成功しました。
・その機能が失われると生存できなくなる重要な遺伝子の研究への貢献や、これらの遺伝子を標的とする品種改良への応用が期待されます。

(概要説明)
熊本大学大学院先端科学研究部の石田喬志准教授らの研究グループは、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9*1を応用して、機能が失われると致死的な影響をもたらす重要遺伝子について、生存可能な部分的機能抑制型突然変異体を作出する方法を考案して実際に作り出すことに成功しました。
生き物の設計図であるゲノムDNA上には多数の遺伝子が存在します。生存に必須な遺伝子の多くは、その機能が失われると死んでしまうため、遺伝子の働きを研究することが困難でした。石田准教授らは、遺伝子の働きを完全に止めるのではなく低減させる方法を考案し、実際にモデル植物シロイヌナズナで致死遺伝子として知られるHPY2 遺伝子を標的にゲノム編集を行いました。その結果、予想通り、生育に遅延が見られるものの致死的ではない、部分的機能抑制型突然変異体を取得することに成功しました。
本研究の成果は、これまで研究することが困難であった重要遺伝子の研究への貢献が期待されます。また、繊細な遺伝子機能の活性調節が必要となる、農畜産物の品種改良技術への発展も期待されます。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(研究代表者:石田喬志、課題番号:23K05803)の支援により、「Journal of Plant Research」誌から11月16日(日本時間)に公開されました。

[展開]
ゲノムDNA上には、機能が損なわれると致死的な影響をもたらす重要な遺伝子が多数存在しており、その役割に関する研究は道半ばです。本研究で提案した方法は、これまで研究することが困難であったこのような遺伝子の研究にも適用することができると考えられ、生命の仕組みを理解するための研究に大きく貢献することが期待されます。
また、農作物では、品種改良の際に鍵となる遺伝子の多くに、部分的な機能変化が生じていると考えられています。遺伝子の働きを完全に止めると二次的に大きな影響が生じることがあり、そのようなケースでも利用できる新たな方法が必要とされています。本研究で提案した方法は、このような繊細な遺伝子機能の活性調節が必要となる、農畜産物の品種改良技術への応用も期待できるものと考えています。



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