「オーティコンファンミーティング2025」開催
デマント・ジャパンは2025年10月19日の午前、「オーティコンファンミーティング2025」をイイノカンファレンスセンター(東京都千代田区)で開催した。プログラムは、東京女子医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 教授の水足邦雄先生による「聞こえのセミナー」に続いて、オーティコンのフェローが同社の研究開発の現状を報告し、同社補聴器のユーザーへ「わたしのライフチェンジストーリー」と題し、インタビュー形式で聴覚ケアによるQOLの変化について対談を行った。午後からは、隣接するイイノホールで「みみともコンサート2025」が開催された。
「微笑みの障害」を補聴器で本当の笑顔へと変える
オーティコン補聴器は、世界的な聴覚ケア企業グループデマントの補聴器フラッグシップブランドである。その名を冠したオーティコンファンミーティング2025は10月19日の10時30分からイイノカンファレンスセンターで開かれた。
冒頭、挨拶に立った齋藤徹プレジデントは「このオーティコンファンミーティングは、難聴の当事者だけでなく、医療者、補聴器の販売者、聴覚ケアに興味があるさまざまな人たちが垣根を越えて交流する相互型のイベントだ」と説明。午後に開催する、みみともコンサート2025も楽しみにしてほしいと述べた。
プログラムの最初は、東京女子医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 教授の水足邦雄先生による聞こえのセミナー「聞こえづらくて微笑んでいませんか? 補聴器で『微笑みの障害』を改善」である。水足先生は「難聴の方は、その場の雰囲気を壊さないために、よく聞こえていなくても微笑みの表情でごまかしていることが多い」と指摘し、難聴は認知症にもつながっていると述べた。
その根拠となるのが「認知負荷仮説」。難聴になると聴覚処理で脳が忙しくなる結果、認知的処理が手薄になってしまい(リスニング・エフォートと呼ばれる現象)、脳神経や脳容量に影響が出るという考え方だ。しかし、軽度難聴の時から必要時に補聴器を使えば、認知症が発症するリスクを抑えることができるという。
ただ、先進国の中では日本の補聴器使用率は極めて低い。「ある調査によれば、『難聴がある』と自覚している人でも、補聴器の使用率は30%程度にとどまる」と水足先生。補聴器使用者への調査でも、難聴に気付いてから使い始めるまでの期間は平均して7年だったという。
このような状況を踏まえ、水足先生は「軽度難聴のうちに補聴器を使い始めれば、使いこなしも圧倒的にうまくなる。補聴器を使ったコミュニケーションで、ぜひ、作り笑いではない本当の笑顔になってほしい」と述べた。
水足先生が広報委員を務める、耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページでは、聞こえづらさに悩む方向けに難聴にかかわる情報発信している。補聴器診療が可能な耳鼻科医師の補聴器相談医リストも公開しサポートを受けられる環境が整っているので、聞こえにくさを感じたら安心して補聴器相談医に相談してほしいと説明した。
続いて登壇したデマント・ジャパンのフェロー 田中智英巳博士は、オーティコンの沿革と研究開発の現状を「オーティコンと補聴器研究開発のご紹介」としてプレゼンした。
オーティコン補聴器がデンマークで創業したのは、1904年。創業者のハンス・デマントが、難聴で悩む妻カミラへの愛情から補聴器を輸入し、後に補聴器の製造を開始。国際企業のデマントグループへと発展した。現在、日本国内でビジネスを行っているのは、デマント・ジャパン(補聴器事業:補聴器3ブランドを展開)、ダイアテックジャパン(診断機器)、Audika(リテール事業)の3社である。
「オーティコンが掲げるパーパスは『難聴による制限のない世界』、ミッションは『難聴をお持ちの方の人生を変えるため、既成概念を打ち破り、テクノロジーの限界を広げること』だ」と田中博士。それによって、人生を変えるようなテクノロジーの創出を目指しているとアピールした。
同社のこのような活動を支えているのが、77年にデンマーク北部に設置された基礎研究所であるエリクスホルム研究センターである。このセンターが担当しているのは、5~10年先を見据えた長期的な研究。オーティコン独自の『音は耳ではなく脳で聞いている』というブレインヒアリングの開発理念も同研究センターの知見をもとに確立された。「補聴器ユーザー、当社、聴覚ケア専門家、学術界と協力しながら、基礎研究の結果を実際の臨床現場で使えるように橋渡し研究をしている」と田中博士は紹介した。
オーティコン補聴器では、難聴者に起こり得るリスニング・エフォート(聞き取り労力や頑張って聞くこと)にも注力し、それを軽減できるように脳科学の知識をふまえながら、聞こえにおける脳の働きを支援できる補聴器の研究開発をしていると説明した。
コンサート会場では「Voices for All」の試験運用も
替わってステージに上がったのは、補聴器ユーザーの樋田祐一氏とデマント・ジャパンのコンタクトセンター、高井瑠美マネージャー(※「高」ははしごだか)。高井マネージャーの質問に答えて樋田氏が自分のQOLの変化について語る「わたしのライフチェンジストーリー コミュニケーションの力で笑顔をつなぐ」のセッションが始まった。
樋田氏が最初に聞こえにくさを感じたのは、教員採用時の健康診断(聴力検査)だったとのこと。「低音が聞こえず、大学病院で検査を受けたら中度難聴と診断された」と樋田氏は振り返る。補聴器を使うことに決めたのは、受け持ったクラスに“場面緘黙”(特定の場面や状況で話すことができなくなる)の生徒がいて「その子が勇気を振り絞って発するその声を何とか聞き取りたい」そして私生活においても子どもを授かり「自分の子供の声を聞きたい」この二つの理由からだったという。
「数年かかったが、自分に合う補聴器にようやく出会えた」と語る樋田氏。「自分に合わせて丁寧に調整をしてくれるフィッターとの出会いも大きかった」という。
樋田氏が自分の聴覚ケアを通じて訴えるのは、「補聴器は買って終わりではなく、個々人の聴力やニーズにあわせて販売店で適切に調整してもらうことが大切」ということ。聞こえが改善できれば、家庭でも社会でもコミュニケーションはスムーズになると強調した。
講演の後は、参加者の質問に登壇者が回答する質問会が行われ、たくさんの質問が出て盛況の内に幕を閉じた。その後、バックステージツアー、演奏者との記念写真撮影と続き、懇親会では参加者同士の交流や参加者と登壇者の交流も図られ、活発な意見交換がなされている様子であった。
オーティコンファンミーティング2025の後、14時からは隣接するイイノホールでみみともコンサート2025が始まった。14年に始まったこのコンサートも、今年で12回目。今回はダニエル・ゲーデ氏(ウィーン・フィルの前コンサートマスター)が率いるゲーデ弦楽四重演奏団を招いて、約1時間半のクラシック音楽のプログラムを楽しんだ。
みみともコンサートが他の一般的なコンサートと異なるのは、「子どもから大人まで、難聴者も健聴者も共に最上の音楽を楽しむ」という趣旨のもと、コンサートホールで流れる一般的な補聴器のハウリングに関する注意喚起がなく、聞こえに悩みを抱えている人や、補聴器/人工内耳装用者に「情報保障」をしていること。毎年、補聴器や人工内耳に直接に音を送り込むヒアリングループ(磁気誘導ループ)システム、前面のスクリーンに話者が話す内容を要約して字幕として出す要約筆記(ノートテイキング)、筆談スタッフの配置といった三つが提供されてきた。
今年は、それらに加えて、東京工科大学の吉岡英樹講師らによる検証プロジェクト「Voices for All」もこのコンサートの会場で試験運用を実施。Voices for Allは無線LAN(Wi-Fi)とAuracast(Bluetoothの1機能)を併用して補聴器や人工内耳に送信する仕組みになっているので、会場の広さにかかわらず、多様な補聴器や人工内耳で利用できるのが特徴だという。当日、試聴をした、補聴器ユーザーに感想を聞いた。「Auracastの聴覚体験は、まさに驚き。従来のBluetoothとは異なり、ライブの音楽がとても自然かつクリアに聴こえ、これまで埋もれてしまっていた繊細な音まではっきりと感じ取れた。好みは分かれるかもしれないが、この技術が普及し、誰もが当たり前に使えるようになれば、聴こえ方の『選択肢』が格段に増えるはず。それは間違いなく、素晴らしい未来だと思う」という。
多様な参加者が一堂に会して聞こえのケアについて学び、心地よい音楽を楽しむ――。オーティコン補聴器はこのほかにも年間を通じて、さまざまなCSR活動や、聴覚ケアの啓発活動を行っている。
今回は日曜の昼間開催、ということもあり普段コンサート会場から遠のいていた、高齢者や子供連れの家族の参加者も多くみられた。そのためいつも以上に温かい雰囲気のコンサートとなった。







