近年、企業における人材関連課題に関する議論では、「学び直し」や「リスキリング」といった用語が頻繁に用いられ、これらの取り組みが注目を集めています。
また、技術革新の急速な進展や労働市場構造の大幅な変化により、従来のスキルだけでは業務遂行が困難となるケースが増加しており、ダイナミックなスキル再構築が求められる機会も多くなっています。
こうした時代背景を踏まえ、企業活力研究所では、2022~2023年度の研究調査(一次調査)において、従業員の「学び直し」に関する調査を実施しました。
その結果、日常的に長時間の学習を行い、全体の平均時間を底上げしている者が一定数存在することが明らかとなりました。
この結果を踏まえ、今回、2025年度の研究調査(二次調査)では、特に個人学習時間が多い従業員を「学習者」と定義し、その学習内容や周囲環境などを調査し、学習促進効果に繋がる要因や対策を整理することを試みました。

【 I:調査結果のポイントと評価 】

1.一次調査
企業活力研究所では、大企業(従業員300名以上)であって、その従業員の「学び直し」を促進する対策を実施している企業の従業員の「学び直し」の時間数について、調査を行いました。
その調査結果のポイントは、次の通りです。



(注)回答者全体の平均学習時間は、週当たり3.6時間であったが、この値は(2)によって、分布の最大ピーク域より高めに計算されている。(図1)

(図1) 一次調査と二次調査の関係


2.二次調査
二次調査では、一次調査の結果に着目し、週に1時間を超える学習量の人について、追加調査を行うという観点から、月に6時間以上の個人学習を行っている人を「学習者」と定義して、学習内容や環境、企業側の対策などについて、追加の調査を実施しました。
この調査により、以下の点がわかりました。



3.調査結果の評価
(1)学習時間の概況
(ア)大企業の従業員の学習時間は、本調査結果においては、週1時間以下が4割を占める状況であり、あまり多いとは言い難いところです。
他方、週5時間の層、週10時間の層にピークが見られており、一部にかなりの時間数を学習に充てている者はいることは確認できます。

(イ)学習時間については、超過勤務時間が多い層でも少ない層でも、月31時間以上の学習をしている者は かなりの比率が見られており、超過勤務時間と個人学習時間の間に直接の関係があるとは言えない状況でした。

(ウ)一方、月に6時間以上学習している者(「学習者」:学習時間が週1時間超の者にほぼ相当)の状況を細かく見ると、総学習時間のうち、義務的学習(業務遂行のため、実態上不可欠な学習)と自律的学習の時間の構成比を見ると、総学習時間の多寡によらず、ほぼ60%でした。
この点については、調査前の予想とは異なる結果であり、その評価は容易ではありません。
可能性として、学習時間が特に多い月36時間以上の層を除いても、企業が従業員に対し、義務的学習を課することは、その学習量に応じて、従業員の自律的学習の拡大をもたらすことが考えられます。

(エ)「学習者」における学習動機の要因を見ると、17%は直近1年以内の転職を検討しており、特に直近1年以内転職の検討者の26%は、月31時間以上の学習を行っています。
「学習者」のうち、ある程度の者が直近1年以内の転職を検討していることから、直近時点で転職することの検討は、従業員の学習の一つのモチベーションになっていると考えられます。

(2)学習の内容
(オ)「学習者」の学習内容について見ると、「業務スキル向上などのスキルアップのための学習」が主なものとなっています。
これは、従業員においては、直面する業務の遂行能力を向上させるために、誠実に取り組んでいる要因によると考えられます。
同時に、「学習者」の中に1年以内転職の検討者が一定比率いることを踏まえれば、転職の検討を前提とした、専門分野でのスキルアップを図ることも一つの要素となっている可能性があります。

(カ)ただし、「学習者」の中でも、学習時間の中で、デジタル技術に関する学習に充てている時間が多くないことは、近年、デジタル技術が目覚ましく進展・普及する中で、注目されるところです。

(3)有効な対策
(キ)「学習者」の学習環境を見ると、その多くにおいて、その周囲に別の学習をしている者がいることが多く、更にその上司が学習している場合や、共に学習する仲間がいる場合に、本人の学習時間が長くなる傾向が見られました。
この点は、周囲の学習環境の整備によって、学習を促進する効果を持つことが示唆するものであり、学習環境の整備に関する適切な対策の導入が重要であると考えられます。

(ク)一方、学習促進に効果がある企業の制度・仕組みとして、20代層からは、「キャリアカウンセリング制度」、40代層からは「週休3日制度」の効果が高いとの回答が得られました。
後者の制度の導入は容易ではないと考えられますが、ともに、従業員の学習に関する実情を示唆する結果となっていると思われます。
従業員の実情を年齢別に把握し、それぞれに適切な対応策を導入することが学習促進に効果を持つ可能性があると考えられます。


【 II:調査結果の概要 】

1.一次調査
大企業(従業員300名以上)であって、その従業員の「学び直し」を促進する対策を実施している企業の従業員の「学び直し」の時間数について調査をしました。

(1)学習時間の最大ピーク域の人数比率
●学習時間ごとの人数比率
週1時間の者の比率:27.9%
週0時間の者の比率:15.9%  計:43.8%

(2)学習時間の中ピーク域、小ピーク域の人数比率
●学習時間ごとの人数比率
(中ピーク域)週5時間の者の比率:12.6%
(小ピーク域)週10時間の者の比率:4.8%

(3)年代別(若年層、ミドル層、シニア層)に見た人数比率
いずれの年代層についても、週0~1時間の人が最大ピーク、週5時間の人が中ピーク、週10時間の人が小ピークとなっていました。

2.二次調査
大企業(従業員数300名以上)の従業員のうち、「学習者(月に6時間以上の個人学習を行っている人)」を対象とした、アンケート調査を2025年1月に実施しました。
その結果は以下の通りでした。
なお、ここでは、学習時間による比較のため、月当たりの総学習時間が、0~5時間の人を「非学習者」、「学習者(月に6時間以上の個人学習を行っている人)」のうち、月当たりの総学習時間が、6~15時間の人を「短時間学習者」、16~30時間の人を「長時間学習者」、31時間以上の人を「特別長時間学習者」と表記します。

(1)超過勤務時間と総学習時間の関係
超過勤務時間数に関係なく、月に31時間以上の特別長時間学習者が一定比率で見られており、超過勤務時間と総学習時間の直接の関係は確認できませんでした。

●超過勤務時間別の30時間超の学習者の比率
超過勤務時間30 時間/月未満の層における学習30時間/月以上の比率:15.5%
超過勤務時間30 時間/月以上の層における学習30時間/月以上の比率:24.3%

(2)総学習時間のうちの自律的学習時間
「学習者」のうち、総学習時間から、義務的学習(業務遂行のため、実態上不可欠な学習)を除いた、自律的学習の実施比率は、平均で総学習時間の60.0%でした。
また、総学習時間区分ごとの、義務的学習と自律的学習時間の構成比は以下の表の通りでした。
自律的学習時間の構成比は、総学習時間が長いほど、少し高くなる傾向はありますが、あまり大きな差は見られませんでした。

総学習時間区分ごとの、義務的学習と自律的学習時間の構成比

(3)転職意向と総学習時間の関係
「学習者」のうち、直近1年以内の転職を考えている人は17.3%でした。
また、特別長時間学習者について見ると、学習者のうち、直近1年以内の転職は考えていない人の中の、構成比率は11.6%でしたが、直近1年以内の転職を考えている人の中の、その構成比率は26.5%に及びました。

(4)学習内容(自律的学習内容の内訳)
「学習者」のうち、業務命令などの義務的学習を除いた、自律的学習における注力分野を(A)「業務スキル向上などのスキルアップのための学習」、(B)「事業環境や経済・社会情勢理解のための学習」、(C)「リーダーシップ獲得・チームワーク・職場環境整備のための学習」の3分類で確認したところ、自律的学習時間数に関わらず、(A)の「業務スキル向上などのスキルアップのための学習」が最も注力されていることがわかりました。

●自律的学習時間別「業務スキル向上などのスキルアップのための学習」の実施分布
・短時間学習者:70.2%
・長時間学習者:66.4%
・特別長時間学習者:89.1%

(5)デジタル技術の学習状況
「学習者」においても、デジタル技術の学習は約3割の人は、総学習時間のうち、まったく行っていないことがわかりました。

●デジタル技術の学習をまったく行っていないと回答した人の割合
・短時間学習者:28.5%
・長時間学習者:25.3%
・特別長時間学習者:28.1%

また、「学習者」のうち、6割以上の人が、デジタル技術の学習の実施比率が総学習時間のうち25%未満であり、あまり高い比率ではありませんでした。
●デジタル技術の学習の実施比率が0~25%未満であると回答した人の割合
・短時間学習者:61.1%
・長時間学習者:64.9%
・特別長時間学習者:63.3%

(6)学習環境と総学習時間の関係
「学習者」の6割以上は、周囲に学習している人がいました。
●周囲に学習している人がいると回答した人の割合
・非学習者 33.2%
・短時間学習者:65.1% 
・長時間学習者:69.8%
・特別長時間学習者:67.2%

また、総学習時間が長い人ほど、上司自身が学習している場合や、共に学習をする仲間がいる場合の割合が高い傾向にあることがわかりました。

●上司が学習していると回答した人の割合
・非学習者 14.7%
・短時間学習者:41.5% 
・長時間学習者:46.9%
・特別長時間学習者:47.7%

●共に学習する仲間がいると回答した人の割合
・非学習者 39.7%
・短時間学習者:53.3% 
・長時間学習者:62.2%
・特別長時間学習者:69.8%

(7)学習促進に効果がある制度・仕組み
企業の制度・仕組みのうち、従業員の学習促進に効果がある対策としては、必ずしも学習促進を中心的な目標とするものではないと考えられますが、20代層からは「キャリアカウンセリング制度」、40代層からは「週休3日制度」につき、効果があるとの反応が高い状況でした。

●「キャリアカウンセリング制度」に学習促進の効果を実感すると回答した人の割合
・全年代:52.4%
・20代:63.9%
・30代:57.8%
・40代:52.1%
・50代以上:37.0%

●「週休3日制度」に学習促進の効果を実感すると回答した人の割合
・全年代:62.5%
・20代:67.7%
・30代:55.4%
・40代:74.0%
・50代以上:48.6%


【 III:調査方法 】
一次調査及び二次調査の方法は以下の通りです。

<一次調査>
1.調査期間
2023年8月

2.調査機関
一般財団法人企業活力研究所

3.調査対象
・従業員数300名以上の企業であって、その従業員の「学び直し」を促進する対策を実施している企業に勤務する男女としました。
・正社員と契約社員を対象とし、役員、派遣社員、公務員は対象外としました。
・管理、事務、販売、技術、生産に関わる一般職員(係長クラス以上でない者)は対象外としました。

4.有効回答数
800名

5.調査方法
インターネット調査

<二次調査>
1.調査期間
2025年1月

2.調査機関
一般財団法人企業活力研究所

3.調査対象
・従業員数300名以上の企業に勤務する、20代以上の男女としました。
・正社員と契約社員を対象とし、役員、派遣社員、公務員は対象外としました。
・管理、事務、販売、技術、生産に関わる一般職員(係長クラス以上でない者)、および研究職に関わる職員は対象外としました。

4.有効回答数
1,367名

5.調査方法
インターネット調査

(注)一次調査では、「学習」につき、明確な定義を設けませんでした。
二次調査では、「学習」につき、定義を『中長期的に自身の業務遂行に必要となると考えられる内容についてのもの。ただし、当面の業務遂行のために必要な内容は含まれない。』としました。

【企業活力研究所について】
1984年設立。2013年に一般財団法人に移行。我が国経済の着実な発展とゆとりある社会の実現に向けて、産官学の多様なネットワーク形成の支援を行うとともに、経済・社会上の諸問題や企業活動をめぐる政策のあり方について幅広く調査研究・提言活動を実施しています。
○ 研究所ホームページ: https://www.bpfj.jp/
○ 本件に関するお問い合わせ先: https://www.bpfj.jp/inquiry/
○ 所在地: 東京都港区西新橋1-13-1 DLXビルディング3F

報告書の詳細は以下よりご確認いただけます。
https://www.bpfj.jp/report/human-resources2_r07/
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