チョン・ジェイル/JUNG JAEIL Orchestra Concert





2026年2月21日(土)東京文化会館で日本初開催となる作曲家チョン・ジェイルの楽曲をオーケストラの生演奏でお届けする「チョン・ジェイル オーケストラコンサート」。Netflixドラマ『イカゲーム』、映画『パラサイト 半地下の家族』、是枝裕和監督の映画『ベイビー・ブローカー』、2025年公開『Mickey 17』など数々の名作映像作品の音楽を手がけてきたチョン・ジェイル。世界中を魅了するその音楽が、オーケストラとともに日本で初披露されます。開催に先駆けて来日したチョン・ジェイルに直接意気込みを伺ったインタビューが到着しました!

 2021年9月17日に公開されるやいなや、瞬く間にNetflix最大のヒット作となったのが、皆さまご存知『イカゲーム』である。実際にドラマを観ていなくても「緑のジャージ=イカゲーム」と多くの人々が認識するようになったほど、日本でも様々なかたちで大きな話題を呼んだ。待望の続編であるシーズン2が公開されたのは2024年12月26日、完結編となるシーズン3は2025年6月27日と、まだまだ衝撃的かつ感動的な結末の記憶が新しい。
 いくつもの“わらべうた”をはじめとする『イカゲーム』の印象的な音楽を手掛けたのがチョン・ジェイルである。1982年生まれの43歳。カンヌ映画祭のパルム・ドールおよびアカデミー賞で作品賞と監督賞を含む4部門を受賞した傑作『パラサイト 半地下の家族』(2019)の音楽も彼が手掛けており、いま世界的にみて最も注目すべき映画音楽の作曲家といえるだろう。2026年2月21日に日本で初めてのオーケストラ・コンサートを開催するのに先立ち、これまでの歩みから数々の名曲が生まれた経緯まで、たっぷりと話をうかがった。

――ソウル・ジャズ・アカデミーでベースを専攻していた時、ハン・サンウォン(バークリー音楽大学出身でジャズやファンクを演奏する韓国の優れたギタリスト)にフックアップされて、若い頃はバンドで演奏していたそうですね。
 10代の頃の話ですよ(笑)。本当はシンガーソングライターを夢見ていて、2003年に初めてソロアルバム(《눈물꽃 Tear Flower》)を作ったんですけど失敗しました。その時に気付いたんです、自分は歌が下手なのだと(笑)。それに今から振り返ってみると、音楽が難しすぎたのかもしれませんね。当時はアヴァンギャルドな芸術や音楽が好きだったんですよ。例えばフルクサス運動のヨーゼフ・ボイス、実験音楽のジョン・ケージ、現代音楽ならリゲティに惹かれていました。
 ソロアルバムのあと、何のために音楽をやっているのか分からなくなってしまい、以来20年以上にわたって自分のためというより誰かのために音楽を作ってきました。演劇、ミュージカル、現代アートのための音楽などを手掛けてきましたが、運よく映画を通じて世界中で私の音楽を知ってもらえるようになりました。〔※註:失敗したと謙遜しているソロアルバムによって、実際には韓国大衆音楽賞(2004~17年)の新人賞に選ばれている。〕

――ジェイルさんの音楽を聴いていて素晴らしいなあと思うのは、難しくないし聴き心地も良いのに、ありきたりではなく新鮮さが感じられるところです。
 そういう音楽こそがクールだと思っているので、とても嬉しいです。古いものをただ繰り返すだけでは新しい音楽を創り出したとはいえませんから、常に新鮮さを探し続けなければなりません。だから私は自分のことを、様々な感情やあらゆる音楽の素材の“収集家”だと思っています。それが作曲家のあるべき姿ではないでしょうか。
 あるいは、ある種の姿勢(アティチュード)の問題かもしれません。私は坂本龍一さんのことを、先生のような存在だと勝手に思っているのですが、彼はナム・ジュン・パイク(ビデオアートの巨匠)のような前衛芸術家からも刺激を受けていましたよね。そうした姿勢に私も影響を受けてきたんです。

――ちなみに、坂本さんの映画音楽ではどれがお好きですか?
 どれも素晴らしいのですが、私にとっての第1位は『レヴェナント:蘇えりし者』(2015)ですね。初めて聴いた時はこんな音楽があるのだと、本当にビックリしました。中国の明(1368~1644)の風景画を観ていると、山のふもとで川が流れている情景に出会いますが、よくよく観てみると川が描かれていないんですよ! でも確かに川の流れが感じられる……『レヴェナント』の音楽を聴くと、まさにそのような魔法のような体験ができます。音と音のあいだに沈黙が流れ、そこに音楽があるのです。




|『パラサイト 半地下の家族』の音楽に込められた深い意味

――ご自身のキャリアを振り返ってみて、転機となったのはいつだったと思いますか?
 韓国国内に限っていえば、2014年にシンガーソングライターのパク・ヒョシンと一緒に作曲したポップソングの《野生花》が長きにわたってチャートのトップを飾ったことがありました。その頃から独立した作曲家として認知されるようになったように感じています。ただ国際的に知ってもらえるようになったのは、やはりポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019)です。

――そもそもポン・ジュノ監督とは、どのように出会ったのでしょう?
 誰かに紹介されて、2014年に公開された『海にかかる霧』(シム・ソンボ監督)の音楽を担当することになったのですが、この映画のプロデューサーと脚本を務めていたのがポン・ジュノ監督でした。その後、彼が2016年に『オクジャ』を撮影している時に、私を探しにきてくれたんです。しばしば映画監督というものは、それまでとは異なる視点を求めて映画音楽を専門としていない、様々なジャンルの音楽を手掛けてきた人物を起用することがありますよね。おそらく私もそのような理由で起用されたのでしょう。

――実際にお仕事をしてみた印象は?
 全ての計画を完璧に練り上げ、スタッフ一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出す才能をお持ちの方です。一緒にお仕事させていただけるのは幸せですけど、毎回難しいですよ(笑)。例えば『パラサイト』の《オープニング》という楽曲は、脚本の1行目に「暗く、暗く、しかし希望に満ちた音楽が流れる」と書かれていたので、そのサウンドを見つけるためにとてつもなく努力しました。

――『パラサイト』を代表する、もうひとつの楽曲《信頼のベルト The Belt of Faith》は18世紀前半のバロック音楽風の音楽ですね。
 他の場面でバロック時代のヘンデルが作曲したオペラが流れることも含めて、ポン・ジュノ監督のアイデアです。私はクラシック音楽を専門的に学んでいませんので、沢山勉強して作曲しました。まず台本に基づいて私がひとりで作業を進め、映像の編集が完成してから監督のもとに集まって一日中真剣に議論していったんです。画面にぴったりと合うようにする必要があるため、4拍子と3拍子を行き来しています。
 裕福な家から半地下の貧しい家へと降り、反対に貧しい家から裕福な家へと昇る――この構造が劇中で繰り返しあらわれますので、それを音楽に反映させています。時に悲しく、時に風変わりでもある本作のぎこちない優雅さや詐欺師たち。これら全てを同時に表現する上で正統派のバロックではなく、奇妙なバロックだからこそあの場面にピッタリ合ったのではないでしょうか。

――ポン・ジュノ監督がアメリカで製作した最新作『ミッキー17』(2025)でも音楽を担当されています。
 ハリウッド映画なのですが、私自身は韓国で作業をしたので『オクジャ』『パラサイト』と何ら変わりません。私に求められた音楽も基本的にはポン・ジュノ監督スタイルのままです。ハリウッド風の音楽が必要になる場面ではバルカン、ブルガリア、モンゴル、アルジェリアなど、世界各地の民俗音楽の要素を取り入れることで、新しい音楽を作ろうと心がけました。愚かな独裁者によって戦争へとむかっていく場面のために作曲した《セット・オフ〔出発〕》では、アドルフ・ヒトラーが戦略的に用いたワーグナーの音楽を意識しています。





|頭から離れない!中毒性の高い『イカゲーム』の音楽の制作秘話

――遂に今年(2025年)、『イカゲーム』が完結しましたね。これほど世界中で話題になったこと、ジェイルさんはどのように受け止めていますか?
 正直なところ、シーズン1の製作中には全く予想していませんでした。おそらく1世紀に1度あるかないかの出来事だと思いますし、何故ここまで人気を得られたのか考えているのですが、未だ完全には分かっておりません。私自身としては1本の映画と異なり、とにかくたくさんの音楽を作らなければならなかったのが大変でした。
 そのなかから今回のコンサートではオーケストラに合う8つの曲を選んでいるのですが、ドラマのために録音したものをそのまま演奏するのではなく、すべて新しくオーケストラに編曲し直しています。

――そのうち3曲は《Moogoonghwaムクゲの花が咲きました》(≒日本における《だるまさんがころんだ》)、《Round and round まるくまるく》、《Komaya コマヤー、コマヤー(大縄跳びの歌)》といった、ゲームのなかで歌われる「わらべうた」です。
 これらの曲はドラマのなかでは、途中で他の音楽へと移行することが多かったので、今回はピアノとコンピューターではじまり、途中からオーケストラが加わるような形で演奏したりできたらと考えています。

――そしてシーズン2の第1話で使われた《Way Forward》は、シーズン1の冒頭で聴こえる印象的な太鼓と笛の音楽《Way Back then》を発展させた楽曲ですね。この印象的なメロディはどのように生まれたのでしょうか?
 《Way Back then》は『イカゲーム』のオープニングを飾る最も重要な部分ですので、試行錯誤を重ねたんです。まずは様々なことを試しているうち、小学生が遊ぶゲームなのだから、小学校で使われている楽器を使うのが良いのではないかと気付きました。そして敢えて、音程を不安定にしたり、リズムを不規則にしたりする実験を加えたところ、監督も気に入ってくれたんです。
ただ同時に監督から「でもちょっと奇妙すぎるし、キッチュだ。キッチュすぎる」と言われたので、一旦は真面目で厳かな音楽にしようと考えました。しかし『イカゲーム』(シーズン1)の製作がかなり進んでから、やっぱりそれは違うのではないかと思い至ったのです。やっぱり独自性が必要だと考え、いま皆さんが知っている音楽になりました。

――続いての《I Remember My Name》は、日本でも人気のエピソードとなったシーズン1の第6話「カンブ」のクライマックスで流れる曲です。
このエピソードは非常に静かで、親しい仲間を殺さなければならないという非常に悲しいお話ですので、どのようにアプローチすべきか熟考しましたね。あまり多くの音符を入れるべきではありませんし、少し息苦しく感じられるような音符が必要だと思いました。心が張り裂けそうだからこそ、耳を塞ぎながら聴いているような音を探しました。ピアノの音ですが、弦は一本だけなんです。ピアノの弦に1000のレイヤーを重ねて、耳を塞いで聴いているような音を作り出しました。音と音のあいだに大きな空間があるようなイメージです。それでいて悲しすぎるだけでもいけないように気をつけました。




――シーズン2ではゲームとゲームのあいだに毎回行われる投票も見どころでしたね。前半の投票場面で流れたのが《Vote》でした。
 この場面は叫び声や歓声が飛び交い、まるで次に何が起こるか予測できないゲームのような状況--まさにゲームそのもののような状況--ですので、スペクタクルでありながらも過度に複雑ではない音楽を目指して作曲しました。

――《Pink Soldiers》は、ピンクの衣装をまとった運営スタッフ(シーズン2以降はピンクガードという名前で統一された)を象徴する音楽で、毎話冒頭に映るNetflixのクレジットでも使われていたので、無意識に刷り込まれるように耳にしていた音楽です。
 この曲をはじめ、私の音楽スタイルだけでは十分な対比が生まれないと考えた場面では仲間に作曲を依頼しました。血の多い非常に暴力的なシーンを主にお願いしたのが、古くからの友人であるキム・ソンスです。この《Pink Soldiers》ですが、実は彼がおよそ10年前につくった音楽なんですよ。この曲の存在を思い出して、彼に尋ねてみると、まだ何にも使っていないというのです! それで「ねえ、この曲をあててみてもいいかな?」と私が提案し、監督も気に入ってくれたので、長い間忘れられていた音楽を使うことになりました。今回のコンサートで演奏するオーケストラバージョンは、私が編曲しています。

――そしてシーズン3の最終話で流れる《So It Goes》で、『イカゲーム』のセットリストを締めくくられます。
 実はファン・ドンヒョク監督の意向としては当初、シーズン2を作らないつもりだったんです。でも結局は製作することになったので、シーズン1のフィナーレを超える本物のグランドフィナーレだと思いながら作曲しました。




|日本と韓国への熱い思い

――そしてジェイルさんが手掛けた映画音楽からもう一作、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』(2022)の音楽も演奏されることになったそうですね。
 2004年の映画『誰も知らない』を観て以来、私は是枝監督の大ファンでして、もちろん全作品を観ていて、『万引き家族』(2018)は何十回観たか分からないほどです。彼が韓国で映画を撮るという話をうかがって、自分から起用してもらえませんか?とラブレターを書きました。韓国には「オタクソンドク(成功したオタク)」という言葉があるんですけど、まさに私のことだと思います(笑)。
 是枝監督は繊細な方で、俳優さんたちが座って演技をするリーディングをおこなう際に、私が作った曲を全部持ってきてくれて、流しながらリーディングをしてくれたのが思い出深いです。正直恥ずかしくもあったんですけど、とても嬉しい時間になりました。今回は監督もすごく喜んでくださった《Forgiven》と《To Be A Bird》という2曲を取り上げます。実は曲名をつけてくれたのも是枝監督なんですよ。

――映画音楽以外では、ジェイルさんが2023年に発表した2つのソロアルバム『Listen』と『A Prayer』から2曲ずつ演奏されます。後者のアルバムには韓国の伝統音楽のミュージシャンが参加されていて、今回の日本公演にもゲスト出演されます。
 『Listen』は様々な社会問題を抱える私たちは、今後どう歩んでいくべきかを考えている時に、「聴く力」が足りていないんじゃないかという問題意識をもとに作ったアルバムです。先ほども申し上げたように、私は作曲家であると同時に“収集家”であり、一緒に作業をしている人の話を聴くのが私の職業ですから。
 『A Prayer』は韓国の「ビナリ」という伝統的な祈りの歌に基づいています。「ビナリ」はお正月や、新しいことをはじめる方にむけて御多幸を願い、邪気を祓うことでお守りとなるような歌なんです。一種のマントラといえるかもしれません。歌とともに演奏される力強い打楽器が特徴的で、そこに東京フィルと私のピアノが加わります。ゲストの御三方はみな素晴らしいのですが、声楽のキム・ユルヒさんは韓国の国家無形文化財「パンソリ春香歌」を保持している国宝級の存在です。

――最後に、日本公演にむけたジェイルさんのお気持ちを聴かせてください。
 このたび、私にとって韓国以外のアジアで初めて公演できること、しかも最も愛する都市である東京で演奏できることが嬉しくて仕方ありません。しかも幼い頃から親しんできた日本を代表するオーケストラの“東京フィルハーモニー交響楽団”と共演できるのですから、本当に光栄なことです。
 チョン・ジェイルという人物をご存じないかもしれませんが、『イカゲーム』などを通じて私の音楽は知っていただけているのではないかと思います。これらの楽曲が東京フィルと出会った時に、どんな魔法のような感情を生み出すのか? ぜひお楽しみいただければ幸いです。そして、これは文化交流でもあります。韓国と日本のアーティストの間に存在する接点をお楽しみいただけたら、これ以上嬉しいことはありません。

取材・記事:小室 敬幸
写真:Tomoko Hidaki

<セットリスト>*セットリストは変更になる可能性もございます








<出演者プロフィール>

作曲:チョン・ジェイル/JUNG JAEIL


映画・演劇・オーケストラなど多分野で活躍する韓国の作曲家・音楽監督。映画『オクジャ』(2017年)、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でポン・ジュノ監督とタッグを組み、繊細でジャンルを超えたスコアが国際的に評価されている。Netflixドラマ『イカゲーム』ではシーズン1~3の音楽を担当し、エミー賞にノミネート。ハリウッド・ミュージック・イン・メディア・アワード(HMMA)ではTV番組/リミテッドシリーズ部門で最優秀オリジナルスコア賞を受賞し、韓国人初の受賞を果たす。ジャズピアニストとしての経歴を持ち、17歳で初のソロアルバムをリリース。韓国伝統楽器と西洋音楽を融合した独自のスタイルを築きあげている。2024年には彼の叙情的な感性とミニマルなタッチが際立つソロピアノアルバム『Listen』をリリース。2025年の映画『Mickey 17』でも国際的な活躍を遂げ、現代映画音楽において繊細な表現力と多様なスタイルを追求している。




公演概要

チョン・ジェイル/JUNG JAEIL Orchestra Concert

2026年2月21日 (土)17:00開演 (16:00開場) 
会場:東京文化会館 大ホール

作曲:チョン・ジェイル/JUNG JAEIL
指揮:横山奏
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

【チケット料金(全席指定・税込)】
S席:¥11,000
A席:¥8,800
B席:¥7,700
C席:¥ 5,500


【チケット販売先】
キョードー東京 https://tickets.kyodotokyo.com/jungjaeil/
0570-550-799(平日11:00~18:00 / 土日祝10:00~18:00)

イープラス https://eplus.jp/jungjaeil
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/jungjaeil
ローソンチケット https://l-tike.com/jungjaeil

※未就学児入場不可
※お一人様1枚チケットが必要です。
※車いすをご利用のお客様は S席をご購入の上、キョードー東京チケットセンター(0570-550-799 平日11:00-1800 土日祝10:00-18:00) までご連絡ください。
※ホール内には、エスカレーターやエレベーターはございません。あらかじめご了承ください。
※本公演は映像演出はございません。


【お問い合わせ】
キョードー東京 0570-550-799(平日11:00~18:00 / 土日祝10:00~18:00)

主催:キョードー東京
後援:ニッポン放送/TBSラジオ/TOKYO FM/J-WAVE


宣伝:キョードーメディアス
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