(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

 早いもので、今年も残すところあと1カ月。そこで今回は、一足早く、2019年の正月映画を紹介しよう。一般的な本命は、レディー・ガガが主演し、ブラッドリー・クーパーが監督と共演を兼ね、スター歌手夫婦の変転を描いた『アリー/スター誕生』と、コンピューターの世界を可視化したディズニー・アニメの『シュガー・ラッシュ:オンライン』(ともに12月21日公開)だろう。だが、個人的には「ポジティブに生きること」を描いた以下の3本の映画をお薦めしたい。

 まずは、インド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(12月7日公開)から。実話を基に映画化したこの映画は、妻を楽にしたい一心で始めた工夫が、安全で安価な生理用品の普及につながったというひょうたんから駒のような話だ。

 主人公ラクシュミ(アクシャイ・クマール)のけなげさや、決して諦めないポジティブな姿勢に胸打たれ、映画を見ながら彼を応援したい気分になるが、これはひとえにインドのジョージ・クルーニーと言われるクマールの演技力の賜物。

 それ故、嫌味になりかねない国連での演説も、彼の人柄がにじみ出て、爽やかな印象が残る。インド映画お得意の歌の挿入もあるが、今回はラクシュミの心情に沿った歌詞が面白い。

 続いては、大泉洋が筋ジストロフィーを患いながら自立生活を送った実在の鹿野靖明を演じた『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(12月28日公開)。この映画は、鹿野と彼の日常を支え続けた大勢のボランティア(通称ボラ)が、互いに影響を与え合いながら変化していく姿をユーモアを交えながら描いている。

 見る側も、最初はタイトル通りにボラをこき使う鹿野を見ながら反感を抱くが、やがて鹿野のポジティブな生き方やボラの献身ぶりに胸打たれ、彼らに感情移入していくようになる。つまり観客も映画を見ながら変化していくのだ。

 そして、この映画も『パッドマン~』のクマール同様、大泉の存在がなければ成立しない。鹿野と大泉は共に道産子だから、言葉遣いが自然に聞こえることに加えて、その人たらしぶり、にじみ出るおかしみ、人に何でも頼める率直さ、わがままもなぜか許せてしまう得な性格、という鹿野のキャラクターは、大泉自身とも重なる部分が多いからだ。

 最後は『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』(12月28日公開)。容姿に自信が持てず、消極的な毎日を過ごすレネー(エイミー・シューマー)。ある日、彼女はジムでトレーニング中に頭を打って気を失うが、目覚めると鏡に写った自分は絶世の美女になっていた…。

 ところが、そう見えているのは実はレネー本人だけ。彼女の大いなる勘違いなのだが、美女に変身したと思い込んだレネーは、超ポジティブな女性に生まれ変わり、自信満々に振る舞うようになる。

 変身したと思っている本人と、周囲とのギャップで笑わせるシチュエーションコメディー。思い込みや勘違いから生じるおかしさを描きながら、人間は、考え方一つでポジティブになれるということを説く。脚本のうまさと、全米でコメディエンヌとして大人気というシューマーの熱演が相まって、大笑いさせられること必至だ。

 その他、ウィノナ・ライダーとキアヌ・リーブスの4度目の共演作となったシニカルな恋愛コメディー『おとなの恋は、まわり道』(12月7日公開)、18歳で『フランケンシュタイン』を書いた英作家メアリー・シェリーの内面に迫った『メアリーの総て』(12月15日公開)、パラレルワールドを行き来する主人公の選択を描いた『ふたつの昨日と僕の未来』(12月22日公開)など、小品も面白い。

 また、4Kでよみがえった名作として、マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』(12月14日公開)とジャン・ヴィゴ監督の『アタラント号』(12月29日公開)も上映される。(田中雄二)