筆に任せて追加しますと、
忠臣蔵は、複数の戯作者の筆による歌舞伎の大作。
技量の要求される芝居です。
これをあえて若手で組んだ、というのは
春らしい試みですよね。
特筆すべきは、来月猿之助を襲名する亀治郎丈は
亀治郎としてはラストステージ。
いろんなご意見はあるかと思いますが、
各役者の現在までのあれこれを想起させ、 今後を期待させる、
いい意味でも悪い意味でもの
まさしく「今」を感じることのできる要素が
ちりばめられた、
面白い舞台でした。
さて、なぜ万年筆と忠臣蔵が関係あるかというと
たいへん文房具的シーンを見つけたからです。
「ああ、わかった、大石が読む密書を お軽が盗みみるところでしょ」
と思ったあなた。
歌舞伎通ですね。
でも残念ながら違います。
その場面とは六段、勘平切腹にあります。
勘平切腹とは
女性問題がもとで仇討ちの仲間に入りそびれた
世紀の不運男:早野勘平が
これまた不幸な勘違いから切腹!に至る悲劇の場面。
この場面ではすでに刃物を自分の腹につきたてた勘平が 苦しい息の下、
諸事情を説明します。
すると数々の誤解が溶けていく...という もう悲しいやら苦しいやらの場面。
すべての誤解が解けた勘平は めでたく仇討ちの仲間と認められ、
連判状に連名することを許されますが、
まあ、この場面の切羽詰まり具合ときたら 筆舌にしがたい。
ああ、腹切った勘平が最後の力を振り絞って... という時、
素早く矢立から筆をを取り出した
不破数右衛門は書きつけたあとは これまた、
目にも止まらぬ早さで その筆、矢立にしまった後に
勘平に声をかけるのです。
ここです。
数右衛門は、虫の息の勘平を目の前にしても
「筆を乾かさなかった」
万年筆愛好家の方は
このシーンにはかなりのシンパシィを
覚えるのではないでしょうか。