デル・EMCジャパンの大塚俊彦 代表取締役社長

デジタルニッポン再生論──ITトップが説く復活へのラストチャンス」#4 学生だったマイケル・デルが1984年、テキサス州・オースチンにあるテキサス大学オースチン校の寮の一室で始めたDELL(デル)。程なく押しも押されもせぬ一大PCブランドに成長。そして今や、ストレージのEMCを筆頭に、仮想化技術のVMware(ヴイエムウェア)やクラウド開発のPivotal(ピボタル)などを傘下に収める一大ITソリューション企業に変貌を遂げた。DX(Digital transformation=デジタルトランスフォーメーション)とは何か。何をどう変えれば実現できるのか。IT業界のトップに率直に訊いて歩く連載「デジタルニッポン再生論──ITトップが説く復活へのラストチャンス」。第4回はデルとEMCジャパンでトップを務める、大塚俊彦社長だ。

デルとEMCジャパンは現在、川崎と渋谷に拠点が分かれているが、間もなく完成する大手町の「Otemachi One タワー」7フロアを借り切り、21年にもオフィス統合をする計画だ。大塚社長は新拠点を、「最先端のデジタル変革の発信基地、デジタル変革のショーケースにしたい」と話す。同社が抱える豊富なリソースを集め、DXを見て実感できるスペースになりそうだ。

日本企業は、DXから大きく取り残されていると見る向きも多い。実際の空間に触れることで、DXへの船出を決意する企業が現れるかもしれない。しかし、大塚社長は日本企業のDX進展度合いについて、必ずしも大きく遅れているわけではないと語る。

「デルテクノロジーズグループでは、グローバルのDX進捗度調査を定期的に行っている。最も進んでいるデジタルリーダーから、最も遅れているデジタル後進企業まで5段階で自己評価していただくものだ。2018年の調査では、デジタルリーダーに相当する変革が完了している企業は世界でわずか5%にすぎない。日本は2%」(大塚社長)という。

あまり大きな差はないように見えるが、問題は「デジタル後進企業」。世界で9%と1桁になっているのに比べ、日本で39%と最も多い。日本のDXの進捗が遅れているゆえんだろう。とはいえ、DXへの取り組みは、徐々に構想検討段階から、実装活用段階へ進みつつあるのが現状だ。その中で、「まず考えなければならない変化は、データの爆発的な増大」(大塚社長)だ。

「07年の米国では、携帯電話から生まれるデータ量が1年で86PB(ペタバイト)だった。19年にはこれが18時間で生成されるようになっている。2030年にはこれがわずか10分で生成されるようになるだろう」。大塚社長が示した例は、まさにわれわれを取り巻くデータの大きさを示している。

比較にならないほど巨大なデータの塊を、どう生かしていくか。これがDX推進の一つのカギになる。一口にデータといってもさまざまだが、企業が生成したり獲得したりするデータは「経営資源」と考えるべきだ。ヒト、モノ、カネと同列データを扱うことがキモだ。

「デルでも、データレイクなどデータ活用のシステムを用意しているが、まず、他の経営資源と同様、データも、どう活用しどう管理するかという戦略が不可欠。中でも、非構造化データをどう活用するかが極めて重要だ」という。

旧来のデータベースの中に収まっている規則正しいデータはもとより、SNSの情報や熟練工のノウハウから画像、映像といったものまで活用する。こうした簡単・一様に扱えないデータを評価し活用してビジネスの糧にしていくためには、これまで以上に、最新のデジタル技術の助けなしには不可能だ。

「データドリブンエコノミー、データドリブンビジネスの時代。データの活用を制する者が企業経営を制し競争力を支配する時代になってきている」大塚社長はそう指摘する。

この数年で、われわれを取り巻く技術は目覚ましく進歩した。ディープラーニング、マシンラーニングなどによるAIの発展、ARやVR、IoTの進展、そして目前に迫る5Gの普及。

「数年前までは活用する企業が少なかったが、こうした技術が当たり前になり、大きなトレンドを生み出している」ことで、“巨大なデータを飼い慣らす術”を手に入れようとしている。これまで見えなかった“カオスの海”から、意味のある“武器”を選び取ることで、競争に生き残ることにつながるわけだ。

「日本にはチャンスがある」と大塚社長はいう。「現在、新しい流れが同時並行的に生まれている。自動車、金融、デジタルガバメント、電力、ガス、ユーティリティ産業など、どれもが大きな変革のうねりが出てきた。共通の課題は生産性の向上。ITにとどまらず、日本社会が全般に抱える問題だ。ロボティクスやRPAも駆使して解決しなければならない」と話す。

こうした状況がなぜチャンスなのか。技術が熟し超高速通信網の確立が目前。これらを十二分に活用し新しい収益モデルを生み出し、加速していくだけだからだ。

デルテクノロジーズのジョン・ロースCTOは、頻繁に来日し日本企業の可能性に大きな期待を寄せている。世界中の技術トレンドを見てきている中で、「産業が持つ基礎体力がしっかりしており、その上できめ細かい先端的なサービスを展開し、製品開発を行っている。ここにデータの力がけん引役になってDXによる変革が加われば、日本ならではのデジタル変革が生まれると」見ているという。

では、どうやってDXを現実のものとしていくのか。毎年デルテクノロジーズが開催している「デルデルテクノロジーズフォーラム」。ここ数年掲げるスローガンは「リアル」。表現こそ毎年変わっているものの、本質は現実のものにしていこうという思いで貫かれている。

逆に言えば、それだけさまざまなハードルが存在する、ということだろう。「一気呵成にはできない。デルでは、IT、オートメーション、アプリケーション、ワークフォースの四つを提唱しながら、着実にDXを現実のものにしていく」。

もちろん、デルは製品群が豊富だ。クライアント、エッジ、ゲートウェイ、データセンター、サーバーストレージ、ネットワーキングなど、さまざまなハードを提供できる。さらに、ピボタルに代表されるクラウドテクノロジーも有する。これらをどう組み合わせて目的を達するかが重要だ。

大塚社長は、「DX支援のためのコンサルティング部隊がある。世界中の知恵と知見を共有して変革を支援する。日本でも、昨年は100件ほどの実績がある。今年は、もっと増える」という。「もちろん、システムインテグレーション、インプリメンテーション、アプリケーション開発、システムの導入・運用などに関しては、パートナーの力を借りて、ともにプロジェクトを進めていく」と話した。

莫大なデータは、何もしなければ役立たずの“厄介者”だ。非定型で一見、無秩序。無駄にストレージを専有する。しかし、今や誰もが安価に使えるテクノロジーがある。爆発的に増大するデータをどう手なずけて味方につけるかが、経営を左右する時代に、すでに突入している。“厄介者”は宝の山に変わるのだ。(BCN・道越一郎)