お直役の南沢奈央

 喜劇作家・鈴木聡の代表作「阿呆浪士」が1月8日から上演される。本作は、一介の魚屋「八(はち)」が、赤穂浪士として討ち入りを果たすまでを、たっぷりの笑いと、ちょっぴりの涙で描くエンターテインメント時代劇。今回の上演では主人公・八役を戸塚祥太(A.B.C-Z)が演じ、その他のキャストも新たな顔ぶれが出演する。その中で、八が心引かれている長屋小町のお直を演じる南沢奈央に、本作に懸ける意気込みを聞いた。

-2019年は3本の舞台(「罪と罰」「恐るべき子供たち」「HAMLET―ハムレット―」)に出演されました。「2019年は舞台の年にする」など、何か狙いがあったのですか。

 この仕事を始めて13年ほどたちましたが、「女優の仕事をしたい」と思ったそもそものきっかけは「舞台をやってみたい」と思ったからでした。実際に舞台をやると、いろいろ鍛えられたり、根性もすわったり(笑)と得るものが多くて…。「またやりたいな」と思っていたときに、舞台の仕事をたくさん頂けたのが2019年でした。TVの仕事では、NGを出してはいけないという思いから、どうしても瞬発力が求められますが、舞台は稽古中なら何回試してもいいし、失敗してもいい。その上で本番を迎えればいい、という作り方が好きなんです。

-本作のオファーを受けて、台本を読んだ印象はいかがでしたか。

 「落語みたいな作品だな」と思いました。私は落語が好きでよく聴くんですが、たくさんの登場人物が入れ代わり立ち代わり出てきては、1対1で話を進め、場面もどんどん変わっていくテンポの良さとか、江戸言葉を使ったやり取りが、まさに落語の世界観。すごく引き込まれました。みんなちょっとずつあほで、完璧な人がいない。駄目な人しか出てこないんですが、憎めない人ばかりなんです。八が主人公ではあるんですが、ならば貞四郎(福田悠太/ふぉ~ゆ~)はどうなる? (大石)内蔵助(小倉久寛)はどうなっていく? など、他のキャラクターのそれぞれのストーリーも気になって、サイドストーリーを追い駆けたくなりました。

-南沢さんは、主人公の八が心引かれるお直という女性を演じます。この役とどのように向き合おうと考えていますか。

 今年やった3本の舞台が、いずれも古典でシリアスな作品ばかりでしたので、「阿呆浪士」では、ガラッと雰囲気を変えて、明るくておきゃんで、元気いっぱいで、ちょっと抜けているお直を、自分を開放した状態でやっていきたいです。喜劇ということですから、自分の中のいろいろな引き出しを用意しておかないと、とも思っています。稽古当初は、いっぱいいっぱいで大変でしたが、今、ようやくせりふが入ってきて、心に余裕が出てきたので、また、ここから本番まで、いろいろ発見しながら取り組んでいきたいです。

-ラサール石井さんの演出を受けてみていかがですか。

 初め、ラサールさんは俳優さんのイメージの方が強く、事実、演出中に時々「こうやってみて」とご自分で演じてみせたりするのを見て、さすがうまいなあって(笑)。でも、演出となると、特に笑いに関しては「こうやったらもっと面白くなる」と的確に言ってくださるし、すごく細かい変化まで見てくださいます。最初の顔合わせのときに、作品全体のテイストとして「庶民のエネルギーに満ちたお祭りみたいな作品にしたい」とおっしゃっていて、その言葉でみんなが一気に熱くなったのが印象的でした。

-座長の戸塚さんとは初共演ですが、戸塚さんの役者ぶりはいかがでしょうか。

 せりふ覚えがめちゃくちゃ速いんです! 八は、せりふ量も、場面も多いんですが、何につけても戸塚さんの記憶力に驚いています。一度やった動きも全部覚えていますし。また、力んでいるわけでも、前のめりなわけでもないんですが、ものすごく「攻めている」芝居をなさる方だなと。それでいて、いい意味で力を抜いて全体を見ていて、ひょうひょうと仕事をされている。そして動きや表情も面白くて。個人的に、戸塚さんはシリアスなイメージを持っていたんですが、コメディーセンスもある方なんだなと感じています。

-また、福田さん、そして内蔵助の娘すず役の伊藤純奈さん(乃木坂46)の存在も気になります。

 福田さんは、本読みのときに、せりふの声色の使い方がうまくて、表現力のある方なんだな、と思いました。今日から立ち稽古でご一緒できるので楽しみです。そして純奈ちゃんは…かわいいですねー! 稽古場では隣の席なんですが、狙っていないのに、素で面白い子だなと感じています。

-先ほど「自分の引き出しを増やす」とおっしゃいましたが、普段から引き出しを増やすためのインプットとしてどんなことをしていますか。

 一人旅です。突然「来週、旅に出よう」と思い立ってしまうので、自分で宿と足を予約して、ふらっと出かけています。海外は景色も価値観もまるで違うので、自分がリセットされ、フラットな気持ちになれるのが心地いいんです。一番印象に残っているのは、フィンランドです。フィンランドの方はシャイな人が多く、日本人と気質が近い気がしました。また、男性が女性に、というだけではなく、女性が女性に対して優しく接してくれるので、居心地のよい国だなと感じました。

-とはいえ、マネジャーさんやスタッフさん、ご家族などから「一人旅は危ない」などと止められたりはしませんか。

 何も言われません。というのも、帰国してから「実は旅行に行っていたんだよ」と事後報告するタイプなんです(笑)。

-さて、この舞台が上演される2020年ですが、個人的にはどんなことに挑戦したいですか。

 これまでにインプットしてきたことを、アウトプットしていける年にしたいです。今やっている執筆のお仕事も続けたいですし、経験を形にできる年にしたいです。

-改めて、本作を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

 年始にふさわしい、ぱあっと明るいお祭りみたいな話です。明るさの中にちょっとほろりとさせる人情系の話でもあるので、忠臣蔵や赤穂浪士を知らない方も純粋に喜劇を楽しんでいただけたらと思います。

(取材・文・写真/こむらさき)

 舞台「阿呆浪士」は、2020年1月8日~24日、都内・新国立劇場 中劇場、1月31日~2月2日、大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。
公式サイト stage.parco.jp/