19世紀後半、黒人の奴隷と白人の農民や脱走兵によって構成された反乱軍を率い、ジョーンズ自由州を設立した男の半生を、実話を基に描いた『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』が公開された。
本作を監督したゲイリー・ロスは、これまでは、体だけが大人になってしまった子どもを主人公にした『ビッグ』(88)、大統領の影武者が大活躍する『デーヴ』(93)などの脚本作、そして大恐慌時代の競走馬と男たちの姿を描いた監督作『シービスケット』(03)と、アメリカンドリームやハートウォームドラマを得意としてきた。
それだけに、本作のハードな内容は見る者を驚かせたが、そこには完成までに10年の歳月を懸けたというロス監督の並々ならぬ決意が込められている。
今回、ロス監督は、主人公のニュートン・ナイト(マシュー・マコノヒー)の行動を通して、南北戦争、反乱軍の戦い、KKK(クー・クラックス・クラン)の暗躍など、アメリカ史における闇の部分を描くという手法を取った。故に戦闘場面はリアルで凄惨(せいさん)を極める。
さらに、異人種間の対立、差別、貧富の差、自由とは、神の存在とは…といったさまざまな問題をちりばめ、アメリカという国が抱える矛盾を浮き彫りにした。それは現代にも通じるものだ。
また、黒人の血をひくニュートンのひ孫と白人女性との結婚をめぐる裁判の様子を挿入することで、ニュートンたちが成そうとしたことが、彼らのひ孫の代になっても解決していなかった事実も示す。
この問題は、1958年当時の白人と黒人との結婚を描いた『ラビング 愛という名前のふたり』(3月3日公開)でも描かれていただけに、われわれ日本人が思う以上に根深い問題なのだろうと思わずにはいられない。
ところで、ジョーンズ自由州には、1.貧富の差を認めない。2.何人も他の者に命令してはならない。3.自分が作ったものを他者に搾取されることがあってはならない。4.誰しも同じ人間である。なぜなら皆2本足で歩いているから。という四つの原則があったという。
その意味からも、トランプ新大統領の就任で揺れる今だからこそ、本作は改めてアメリカについて考えてみる際の一助となるはずだ。
マコノヒーの熱演に加えて、陰惨な戦闘シーンとは裏腹な、自然光で撮られた沼地の美しい風景が印象に残る。(田中雄二)