瞑想中に脳内で起きていることをリアルタイムでフィードバックできる世界初のバイオハックツール「Muse S」
【木村ヒデノリのTech Magic #005】 仕事効率を劇的に上げるガジェットに新たな機能が加わった。「Muse(ミューズ)」は脳波や心拍などのデータをリアルタイムに音声に反映させ、正しい瞑想を誰にでも習得させてくれるヘッドバンドだ。その性能はガジェットの範囲にとどまらず、さまざまな研究でも結果を出している。今回紹介する新製品の「Muse S」では、さらに各種センサーを用いて睡眠導入もサポート。科学的データに基づく肉体パフォーマンスの最適化が一段と身近になった。
日本では市民権を得ていない“瞑想”というハック
瞑想と聞くと日本ではまだスピリチュアルなイメージを持つ人が多いのではないだろうか。集中力を高めるという研究結果が多数出ているにも関わらず、「何をもって正しい瞑想とするのか」が漠然としていたために民間療法的な“怪しさ”が払拭されていなかった。
こうした状況を変えるために開発された製品がMuseだ。高精度なセンサーで脳波などを測定し、それを音に反映させることで瞑想ができているのかどうかを教えてくれる。これを日々繰り返すことによって誰でも「正しい瞑想」が習得できるという仕組みだ。
習得のためのセッションはスタンダードな瞑想のトレーニングである「Mind」のほか、正しい心拍を練習する「Heart」、正しい呼吸を練習する「Breath」、正しい姿勢や脱力を練習する「Body」の4種類がある。それぞれ別のセンサーを使って状態を確認しながら進めるので総合的に瞑想の質を上げることが可能だ。
ここまで読んでもまだ瞑想の必要性について半信半疑の読者も多いと思う。そこでお伝えしたいのがMuseを使った「正しい瞑想」の効果が研究でも証明されているという事例だ。
例えば、トロント大学ノーマン・ファーブ博士の「テクノロジーにサポートされたマインドフルネスが注意力と感情に及ぼす影響 : ランダム化比較試験(Attentional and Affective Consequences of Technology Supported Mindfulness: a Randomised Trial)」では、健康な成人を対象に6週間Museを使って定期的な瞑想をおこなってもらったところ、注意力が向上し、頭痛・苦痛・不快感などが軽減したとしている。
他にも多数の研究で一定の効果が報告されていることから、ハードウェアはもちろん、アプリとの連携で”結果が出る瞑想”に導いてくれる完成度だと言えるだろう。
ゲーミフィケーションによって工夫された続けやすいトレーニング
実際使ってみるとトレーニングも直感的で使いやすく好印象だった。バンドとイヤホンをつけ、アプリでセッションを開始したらリラックスして目をつぶる。すると雨や波など自然の音が聞こえてくるので、呼吸に集中しながら心を落ち着けていく。
正しく瞑想モードに入れていると自然の音は静かになり、やがて鳥の声が聞こえてくる。反対にうまくできていないと嵐になり、激しい雨や波の音とともに鳥はどこかにいってしまう。セッションが終わると何匹の鳥が鳴いたかとともに、脳の状態がグラフ化される。これを毎日保存して精度を高めていくわけだ。
瞑想だけでなく睡眠の質も改善
ここまでの瞑想トレーニング機能だけでも秀逸な仕上がりだが、Muse Sには睡眠の質を高める機能も付いている。価格は従来のMuse 2にくらべ1.4倍とかなり高くなってはいるが、後述するデータを見てもらえば納得できるのではないだろうか。そのくらいこの「Go-to-Sleep機能」と呼ばれる新機能はすぐれていた。
Go-to-Sleep機能でも、瞑想と同じくセンサーからのリアルタイムデータを使って睡眠を改善していく。違うのは意図的にトレーニングするわけではなく、ヘッドバンドとイヤホンをつけてベッドに横になるだけ、という部分だ。客観的に効果を測定するために「Auto Sleep」という別のアプリも併用し、計測を試みた。結果は驚きで、Museをつけて寝た時の方が明らかに睡眠が改善されている。
長時間寝ても深い睡眠が少なかった使用前にくらべ、Go-to-Sleep機能で就寝した場合は睡眠時間が短くても深い眠りが多くなっているのがわかる。また心拍数の平均値の低下も深い眠りであるノンレム睡眠がきちんと訪れている証拠だ。
日中も以前よりも疲れが取れている実感がある。正直ここまでの違いが出るとは思っていなかったので非常に驚いた。(※睡眠の質はレム睡眠とノンレム睡眠がバランスよく交互に来ると良いと言われている。深い眠りであるノンレム睡眠だけが多くても質がいいとは言えないそうだ。)
1か月間使ってみて、瞑想のみでも仕事のパフォーマンスに違いは出たが、睡眠の質においてもここまでの結果を出せるデバイスは正直”買い”だろう。先進的なガジェットの中には発展途上のものも多いがMuseに限って言えば実用段階だと断言できる。あえてデメリットを上げるとすれば英語にしか対応していないというところだろうか。
「頭が冴えない」といった漠然とした悩みは意識的に行動しても改善しづらい。だがMuse Sのようなデバイスがあれば、具体的な数値や結果を元に自分を最適化していける。現代社会において、集中力や睡眠の質を数値に基づいて改善できるのは大きなメリットだ。
睡眠に関しては他にも多くのスリープテックが存在するが、脳波をリアルタイムに活用しながら改善していく手法は、単に結果を教えてくれるものよりも効果的だと感じた。現在コンテンツは英語のみの展開だが、国内製品にない先進性と実用性を感じたので読者もぜひ試してみてほしい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
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