難しい「イケメン/非イケメン」の定義

プレイ画面 ©CYBIRD

――なるほど。そして先程から「イケメン/イケメンじゃない」というお話が出てきますが、その定義はどうやって決めていますか?

新井・鈴木:(ふたりで顔を見合わせる)

新井:本当に難しいんです。ひとことで伝えるのは難しいのですが、「イケメンシリーズ」のブランディングメッセージとして「全ての女性に心うきたつ毎日を」というのがあるんです。全ての女性たちに「キュン」としてもらいたい。

ひと言で「俺様系がイケメン」みたいな定義やイメージよりも、内面を大切にしているところはあって。そういう観点からするとゲーム内で「いつでも自分の味方になってくれる存在」ということは大切にしています。

恋愛ゲームに求めるものとして、「日常から離れてゲームの中に没頭したい」というときに、“いつも自分の味方になって、自分に寄り添ってくれる存在”に、癒やしや胸キュンを求めるのかなと。ストーリーにおいて敵から始まるキャラクターもいたりするんですけど、最終的には主人公に寄り添って、恋に落ちるという部分は、シナリオでも大切にしているところです。

鈴木:主人公の心に寄り添うキャラクターにすることは、すごく心がけています。2次元のキャラクターですが、「実際にいるかもしれない」というリアリティや、内面の深掘りを追求しています。「イケメンシリーズ」の最大の特徴はキャラクターの内面を掘り下げてシナリオを作っているところにあると思っています。

――『イケメンヴァンパイア』のサイトにある「イケメン通信簿」のパラメータも、たとえばナポレオンですと「クレープ好き度」とか「皆のお兄さん度」とか、ちょっと風変わりなものもありますよね。そういうスキのある設定は狙いのひとつなのでしょうか。

鈴木:ナポレオンは一見完璧なキャラクターなんですけど、背景を調べたらクレープが好きだという史実が残っていたんです。そういうクスッと笑えるような、イケメンに「ヌケ感」を与えるのも大切だなと思っています。

新井:イケメンシリーズのセンター(にいるキャラクター)は、クールなキャラクターが多いのですが、完璧なキャラクターは誰もいないんです。絶対どこかにかわいい一面や、大人で妖艶なキャラでも可愛らしさがあったりとか。

「いつでも味方でいてくれる」という話につながってくるのですが、ただ完璧な人よりも、スキがあるほうが心と心の距離が近づくのかなと。

――チーム内でそういった「イケメン像」は共有されているのですね。

鈴木:その共通認識はしっかりしていると思います。

“キュン”はどこから生まれる!? 驚きの制作風景

――100名を超える大きなチームになっていても、そこがしっかり共有されているのはコツがあるのでしょうか。

ディレクター・新井優衣香さん

新井:メンバー自身がシナリオを読み込んで楽しんでいるところが大きいと思います。このあたりのニュアンスはどんなに言葉で語っても、実際にシナリオを読んでみないとわからない部分も大きいかなと。

監修に関しては、経験があるメンバーが担当しています。入ったばかりのメンバーが監修して「イケメンシリーズ」らしさについての判断ができるのかというと、そうではなくて。基本的にはチームのシナリオを全部読んで、どういう観点で監修してるかを見てもらいつつ、肌で感じて学んだ中で、監修できるようになっていくと思います。

例えば「主人公とはこうあるべき」と口で説明するよりも、実際にシナリオを読んでもらう中で、学んでいってもらう方が大きいかなと思います。

――ときめきをどう作るかを共有しているのですね。

鈴木:ときめきって、わりと日常から生まれると思っていて、舞台が戦国や幕末でもそれは同じかな、と。ミーティングで、「最近自分の彼氏になにを言われてキュンとした?」みたいな「キュンのストック」を共有したり。「キュン」の平均値をぶらさないということは大事にしています。

――「キュンの平均値」!

鈴木:(笑)。アニメやほかのエンタメを摂取しすぎると、変にマニアックになりすぎてしまう可能性があるんです。「イケメンシリーズ」は王道のキュンが必要なので、アニメ好きではない人、例えば新井のように普段ゲームをあまりプレイしないメンバーに話を聞いたりしてバランスをとるようにしています。

新井:「キュンシート」ってあるよね。

――また新たな言葉が!

鈴木: 新しいメンバーが入った時に、その人の考える「胸キュン」が「イケメンシリーズ」で描く「胸キュン」と違うということがあるんですね。たとえば「パンをくわえて通学路でぶつかって」みたいなキュンは少し古いじゃないですか。

なので「あなたが胸キュンだと思うことを1日5個あげてみてください」と、シチュエーションをあげてもらっています。そうやって「キュンの平均値」をならしていって、「共通のキュン」を理解してもらった上で、その人らしさの胸キュンを広げていくことが上達の近道なのかなと。

――チームプレイでイケメンを作るのは大変ですよね。おっしゃるように人によって「胸キュン」の認識が違うでしょうし。

鈴木:意見が分かれたらなるべく社内のたくさんの人に聞きますね。女性の多いチームですし、多い方の意見がお客さまの感覚に近いと思うので、そこにすり合わせたりします。