桜井和寿 写真:渡部伸拡大画像表示

さて、そんなとてつもない時間を生み出した後も、アンコールで登場した桜井は変わらずどこかユニークな佇まいで、「どうもありがとう! タマゴ、盛り上がった? スタンドの人、触れなくてごめんね」とオーディエンスに優しく話しかける。そして発売されると同時に大ヒットを記録しているベストアルバム 『Mr.Children 2001-2005〈micro〉』と『Mr.Children 2005-2010〈macro〉』について、タイトルの〈micro〉と〈macro〉は、実は精子と卵子なのだと語り始める。

「人間の細胞の中でいちばん大きい細胞が卵子で、いちばん小さいのが精子で、そんな卵子と精子が……なんつうの(笑)? 合わさってさ、新しい命が生まれてくれたら嬉しいと思って、『micro』と『macro』。それで調子に乗ってタマゴも作りました(笑)。タマゴに触れなくても、今日帰ってまたアルバムを聴いて、そこでまた何かが生まれてくれたら嬉しいです」

 


今から11年前、自らポップの恐竜=POPSAURUSと名乗り、1枚は生きている、もう1枚は骨だけになったモノクロのサイの横顔がジャケットの、2枚のベスト盤を世に放った彼ら。時代を代表するヒットメーカーによる初のベスト盤としては、あまりに無愛想で攻撃的なアートワークだった。それから11年。新たな生命の象徴をシンボルに掲げ、堂々たるパフォーマンスを繰り広げる彼らの姿に、Mr.Childrenが、そして私たちが過ごしてきた時間の重みを感じて、グッとくる。

アンコールは、「目まぐるしく移り変わるこの場所だからこそ歌いたい」と言って桜井が弾き語った『東京』、そしてバンドも登場しての『彩り』へと繋がっていく。本編ラストのアッパーチューンの連打で焼け付くように火照った体は次第にクールダウンしていくが、かわりに体の奥の方からジンワリとあたたかな感情が沁みだしてくる。すでに心を通じ合わせた5人とオーディエンスとの間に、もはや垣根は存在しない。