草彅がみせる、「全部、本当」という力技

浩一は、復讐相手を見る。そして、仲間を見る。だが、その目は、単なる憎しみではないし、単なる信頼ではない。その眼差しには、わかりやすい感情は注入されておらず、一見、彼は「ただ、眺めてるだけ」なのではないかと思わせるほどだ。だが、そうではない。ふと、気づけば、底なし沼のように、深い深い人間性に魅入られている。そう、この主人公のことが、もっと知りたくなるのだ。

前述したように、草彅は、いわゆる「秘めた」芝居をしているわけではない。むしろ、曝け出している。ときには、オーバーアクトぎりぎりの瀬戸際にダイヴしてさえいる。その緩急のつけ方と、振幅の豊かさもまた、一貫性からの飛翔につながっている。

どういうキャラクターなのか、尻尾は掴まえさせない。だが、どの瞬間も「この男の真実」と思わせる説得力がある。カモフラージュがない。「全部、本当」という力技。

怒りはひと色ではない。悲しみもひと色ではない。そして、人間もひと色ではない。『嘘の戦争』の草彅剛を見つめていると、そのことに気づかされる。

わたしたちは、無限の存在なのだ。感情も、表情も、人情も、無限の可能性がある。草彅はおそれることなく、無限の領域をまさぐっている。彼は、復讐というネガティヴな行為に取り憑かれた一ノ瀬浩一を体現しながら、逆説的な人間讃歌を、わたしたちに捧げているのではないか。

来週は最終回だ。ラストは知っている。だが、わたしは、結末に至るまで、ひと色ではない主人公の眼光に、どれだけ出逢うことができるか、楽しみで楽しみで仕方がない。

連載<SMAP is ALIVE―SMAPは生きている>更新中!

第1回:【SMAP】PVから見えてくる、“5人からの隠れたメッセージ”

第2回:俳優・木村拓哉、キャリア最良の演技!? ドラマ『A LIFE』で見せた“名シーン”

第3回:ハンパない!『嘘の戦争』の演技に見る「草彅剛にしかできないこと」

第4回:メンバー5人のラジオから受け取る、“変わらない日常”の尊さ

第5回:【中居正広】生放送でより輝く、MCを超えた魅力とは?『ミになる図書館』~『スマステ』を見て

第6回:SMAPは「無限の住人たち」である――映画『無限の住人』のラストが示すものとは

最終回:【SMAP】“珠玉の10曲”からいま受け取る、彼らが残したかったメッセージ

ライター/ノベライザー。「週刊金曜日」「UOMO」「T.」「シネマスクエア」などの雑誌、T-SITE、リアルサウンドなどのネット、日本映画の劇場用パンフレットなどに寄稿。楽天エンタメナビで週刊SMAP批評「Map of Smap」を3年5ヶ月にわたって連載。草彅剛主演作のノベライズ『嘘の戦争』(角川文庫)が3月10日に発売。